糸井重里の朴訥とした声~演技の魅力
本作を鑑賞してまず印象に残るのが、サツキとメイの声だろう。彼女たちを演じたのは専業声優の日髙のり子と坂本千夏。二人とも絶妙に耳に残るトーンで、無邪気なサツキとメイの心情を描写している。
そして、本作で最も注目を集めたキャスティングが、サツキとメイの父親・草壁タツオ役の糸井重里だろう。この役は、もともと一人芝居で知られるイッセー尾形が担当する予定だったが、事務所のスタッフが糸井を推薦したのだという。
現在は『ほぼ日刊イトイ新聞』で知られる糸井だが、1980年代当時当時はバリバリのコピーライターで、演技経験は当然ゼロ。そんな糸井の素人演技は先述の2人に比べるとお世辞にも上手いとは言えないものの、不思議と味があり、研究者である草壁の心の中のこだわりを表現できている。
なお、糸井は本作をきっかけとして、今日に至るまでジブリ作品のコピーを担当。ジブリ作品の浸透に一役買っているのは言うまでもない。
非職業声優陣では、もう一人カンタの祖母を演じた「日本一のおばあちゃん女優」北林谷栄を挙げなければならない。北林は、いささか癖が強いイントネーションで、カンタの祖母を滋味深く演じている。
なお、サツキとメイの母親役は、『風の谷のナウシカ』でナウシカ役を演じた島本須美が好演。温もりのある声で作品全体を優しく包み込んでいる。