“倒産”という言葉に込められた意味は? 映画『大名倒産』の評価は? 神木隆之介主演の経済時代劇を深掘り考察&解説
text by 寺島武志
ベストセラー作家・浅田次郎の小説を、主演をつとめる神木隆之介をはじめ、杉咲花、松山ケンイチら超豪華キャストで実写化した映画『大名倒産』が公開中だ。現代につながる“お金”をテーマにしたエンタメ時代劇は面白い? それともひどい? 忖度なしガチレビューをお届けする(文・寺島武志)【あらすじキャスト 解説 考察 評価】
原作を手がけたのは国民的作家・浅田次郎
映画の内容に入る前に、原作者・浅田次郎の話からはじめよう。
浅田は生まれ故郷である中野区の新中野駅周辺の鍋屋横丁商店街を舞台にしたタイムリープ作品『地下鉄に乗って』(2006)や、直木賞を受賞した『鉄道員』(1999)といった抒情詩的な作品に加え、死後の世界を描くコメディータッチのファンタジー『椿山課長の七日間』(2006)を手がけるなど、実に幅広い作風で知られる。
映画化された小説を数多く執筆している浅田であるが、時代小説においては、新選組を題材とした『壬生義士伝』(2003)に代表されるように、幕末を舞台とする作品が多い。
そして、本作も江戸末期を舞台としている。
石高3万石の越後丹生山藩で、塩引き鮭作りの名人にして鮭役人の間垣作兵衛(小日向文世)の息子として平穏に暮らしていた間垣小四郎(神木隆之介)は、ある日突然、自分が徳川家康の血を引く丹生山藩主の跡継ぎだと知らされる。しかも実父の一狐斎(佐藤浩市)は、小四郎に諸問題を“丸投げ”し、隠居してしまう。
庶民から藩主へと出世したかに思えたのも束の間、丹生山藩が25万両(今の価値で約100億円)もの借金があることが分かる。歳入が約4億円であるから、実にその25倍もの借金を抱えているわけだ。
頭を抱える小四郎に、一狐斎は「大名倒産」を命じる。それは借金の返済日に藩の倒産を宣言して踏み倒すという案だったが、実は一狐斎は、自らの放蕩ぶりの責任を全て小四郎に押しつけて切腹させようとする企みだった。