宮崎駿の“神話”―演出の魅力―
本作は、1997年に公開された宮崎駿監督作品。公開当時は、興行収入193億円、動員数1420万人を記録し、『E.T.』が保持していた日本の歴代興行収入記録を塗り替えた記念碑的作品としても知られる。
宮崎が『風の谷のナウシカ』(1984年)のリベンジマッチとして制作したと言われる本作は、「自然との共生」や「環境問題への継承」といった宮崎自身の終生のテーマが散りばめられている。また、サンとアシタカはナウシカに、エボシ御膳はクシャナ殿下に、王蟲は猪神に準えられるなど、作中のキャラクターや構造も『風の谷のナウシカ』に共通している。
しかし、あらすじからも分かる通り、本作にはサンやアシタカ以外にも師匠連や侍、そしてシシ神をはじめとする神々など、さまざまなキャラクターが登場する。そのため、『風の谷のナウシカ』よりも構造が複雑で、勧善懲悪的なカタルシスはあまり感じられない。また、他のアニメにはみられない残酷な描写も見られ、子供向けのアニメーション作品とは言い難い。
とはいえ、宮崎自身が「最後の作品」と位置付けていただけあり、脚本・映像・演技・音楽がどれも極めて高いレベルで調和しており、宮崎駿の集大成といえる力強く壮大な作品に仕上がっている。そういった意味で、本作は「大人が楽しめるアニメーション」と言えるかもしれない。
なお、本作の当初のタイトルは「アシタカせっ記」(「せっ」の漢字は旧字体の草冠に耳二つで、宮崎自身の創作漢字)で、アシタカが主人公の話だったが、プロデューサーの鈴木敏夫が宮崎の許可を取らずにタイトルを変えたのだという。
結果的に日本映画史に残る傑作となったことを考えれば、鈴木の判断はあながち間違いではなかったのかもしれない。