キャラクター造形で“新宿っぽさ”を演出
マリコ役に伊藤沙莉を迎え、マリコの彼氏で忍者の竹野内豊。落ちぶれたヤクザに北村有起哉、宇宙人をかくまう科学者に宇野祥平など、個性豊かな役者が顔を揃え、クセの強いキャラクターを演じる。
まずは主演・伊藤沙莉について。童顔な伊藤だが、彼女特有の色気と幼さのバランスにやられてしまった。タバコを吸う顔と、特徴であるハスキーボイスに哀愁があり、セリフや表情に深みをもたらしている。
そして何よりも、マリコの過去を全て背負った芝居をしていることに驚く。セリフを超えた風景を感じさせる伊藤沙莉の深みのある芝居によって、この映画は単なる娯楽映画にとどまらず、観終わった後もずしりと心に残る、上質な人間ドラマに仕上がっている。
そこに、マリコの恋人で忍者に憧れるMASAYAに扮した竹野内豊が絡んでくる。竹野内のどっしりとした佇まいが、伊藤の可愛さを際立たせつつ、丁々発止のやり取りでみせる、受けと攻めの応酬がなんとも楽しい。
脇を固める役者陣にも注目したい。特に、殺し屋の姉妹・貞美と茂美のシーンでは、オーディションによって選ばれた中原果南と島田桃依、貞美の年下の恋人で映画監督・石渡役の伊島空がインパクトを残した。
島田桃依が演じる貞美は、頭の中が“エロ”と“欲”でぎっしり詰まっているという異色のキャラクター。姉妹が対峙するシーンを観ると「2人の絡みを撮るのが楽しい」という監督の思いがビシビシ伝わってくる。
貞美の年下の恋人で映画監督役の石渡は、映画が大好きであることに間違いはなさそうだが、映画監督として活動している気配はなく、のんべんだらりと生きている。
そしてこの男も頭には“本能”しかなく、夢ばかり追いかけるバカな男を、なんの迷いもなく演じている様子が清々しい。新宿のゴールデン街で飲んでいて、彼のような夢追い人と出くわした経験を持つ人も少なくないのではないだろうか。本作は、キャラクター造形においても、“新宿っぽさ”がさりげなく演出されている。