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「舞台の稽古に近いのかも」
奥田監督の演出法とそれぞれの役作り

写真:武馬怜子
写真武馬怜子

―――事前リハーサルの段階である程度シーンを固めて撮影に入ったのでしょうか?

田中「いや、固めるんじゃなくて、舞台の稽古に近いのかもね。やっていくうちに生まれたものを撮影していくという感じでした」

―――なるほど。

笠原「僕の場合は真逆でしたね。全然上手くできなくて…。下手なくせに変に役作りをして、空回っていたので、監督も困っちゃって…。それでも何回も何回も練習して、粘土をこねくり回すようにして作っていきましたね」

田中「だから良かったんじゃない?」

笠原「そうですね。監督がそばに居てくれたので心強かったです」

―――笠原さんはたった2週間で役作りをすることになったわけですよね。尋常じゃない苦労があったのではないかと推測します。

笠原「撮影中も役作りは継続していました。田中さんは減量するなど身体の面での役作りもしていたのですが、僕は撮影で使うアパートに住まわせてもらいました。電気は通ってるんですけど、熱湯が出なかったり、部屋の雰囲気を出すために美術品として拾ってきたゴミを置いていたので、ダニで体中が痒くて…。でもそれも活かされたと思います」

―――出演のきっかけはオーディションでしたか?

田中「この辺の詳しい話は言っていいのかな?」

笠原「全部言っちゃってください。監督から『全部行け』とお達しが来ているので大丈夫です」

田中「オーディションが対戦形式で、優勝者は映画の主演を勝ち取ることができるんです。そこで僕、優勝したんですけど、結局一回流れてしまって…。でも監督は『筋を通す』とずっと連絡をしてくれました。しばらくして、再度オーディションを行うことになり、『分かりました、やりましょう』って言ったんですけど、内心では『俺もまたオーディションに出るんかい!』って(笑)」

笠原「ゼロからのスタート…」

田中「一度オーディションで優勝して主演が決まったのに、今回優勝しなかったらバツが悪いじゃないですか。だから絶対優勝しなきゃいけないと思い、結果的に役を勝ち取ることができました」

―――オーディションはどんな所で行われたんですか?

田中「ホールを借りてやっていました」

―――それはみんなが見てるところでやるんですか?

田中「みんな見ています。フリースタイルダンジョンみたいな感じでしたね(笑)」

笠原「勝者を決めるのは監督じゃなくて、オーディション参加者なんですよ」

―――へぇー!

田中「奥田監督は撮影スタイルもオーディションのスタイルも“一生懸命作ったものを出す”ということに重きを置いてないんですよね。むしろ、人間性がブワッと湧く瞬間を大事にしているというか…」

笠原「何かがはみ出る瞬間を大事にしますよね」

田中「人間性をむき出しにした役者同士をぶつからせたいという思いが奥田監督の根本にあると思うんです。それは意識してやろうとしても嘘になってしまうので…。まあ、結局は自分との闘いなんだよね」

―――オーディションは3日に渡って行われたとのことですが、同じ内容のお芝居をするんですか?

田中「状況はその都度変化するんですけど、どのシチュエーションも演じ手に葛藤を引き起こすという点では共通していました。その中でどういう選択をするのかを、監督は見ているんだと思います」

笠原「例えば、1回戦はお葬式の会場、2回戦は洞窟の中で遭難して何日目というような状況でした。確かに全部“葛藤”に通じていますね」

田中「とはいえ、監督は俳優に”葛藤しろ”と上から押し付けているわけではないんですよ。あくまで“俳優自身が自分を追い込む”ということを重視しているのだと思います。実際、監督ご自身も自分を追い込んで突っ走り、周りに止められるような人ですよね。そういう感覚がわかるからこそ、俳優が無理をして怪我をしないよう、尋常じゃないほどの配慮ができるのだと思います」

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