懐かしさあふれる横浜の情景ー映像の魅力
本作の映像の魅力としては、背景美術の美しさが挙げられるだろう。監督の宮崎吾朗は、本作の制作にあたり、吉永小百合主演の日活青春映画を参考に自ら絵コンテを制作。桜木町駅や宮下公園など、ノスタルジーに溢れた世界観を構築している。
ちなみに、「コクリコ坂」や「コクリコ壮」という場所は実在しないが、後者の場所として想定されているのは、横浜市中区「港の見える丘公園」内に居を構える「神奈川近代文学館」である。なお、港の見える丘公園には、本作の記念碑が建てられており、聖地めぐりのスポットとなっている。
カルチェラタンは壮観の一言。擬洋風建築の内装にさまざまな装飾を散りばめたおもちゃ箱のような内観は、スタジオジブリの面目躍如と言ったところだろう。とはいえ、本作の映像的な魅力は、せいぜいそんなところだろう。以下に、筆者が感じた映像的な欠点を2つ紹介する。
一つ目は、キャラクターやカメラの動きが機械的でリアリティに欠けること。これに関しては、海と俊が自転車で坂を下るシーンを見れば位置も瞭然だろう。2人の運転があまりにもスムーズで、自転車さながらの危うさや疾走感があまり感じられないのだ。
また、本作ではティルトやパンといったカメラの水平移動が多用されているが、こういった演出もアニメーションの醍醐味である「有機的な動き」を損ねているように感じられる。
2つ目は、余計なカットが多いこと。本作の印象として、全体的に長回しのカットが少なく、割らなくてもいいところでカットを割っているような印象が感じられる。そのため、物語自体はサクサク進むものの間や余韻がなく、作品としての緊張感があまり感じられない。
とはいえ、こういった欠点は、あくまで宮崎駿作品と比べてのことだ。ストーリーに重点を置けば、十分楽しめる作品に仕上がっていることは言うまでもない。