原作との比較から見えてくるもの
具体的なシーンを考察していこう。信の上官である、王騎は彼の能力と人間性を見込み、軍の100人隊隊長に任命する。しかし、このシーン、筆者の目には信の出世ぶりが少し強引に見え、説得力を欠いているように映った。
しかし、重要なのは、原作で同シーンを読んだ時も同様のことを感じたという点だ。実は原作も、このあたりまで、不人気であり、打ち切りの危惧もされていたのは有名な話。
原作者の原泰久は、その不人気ぶりに悩み、師匠である井上雄彦に相談したところ、「信の黒目を、もっと大きく描け」とアドバイスされたという逸話も残っている。ひょっとすると井上は、上記のアドバイスを通して「ストーリーは良いが、主人公に魅力がない」ということを言いたかったのではないか。そう考えるのはあまりにも牽強付会だろうか。
話は少し反れたが、そのようなバッグボーンがあるゆえ、他のキャラクターに比べて信の魅力がイマイチな理由が、演じる山崎賢人に起因しているわけではないということがわかるだろう。むしろ、そのような状況下で信という役を主役として成立させるための努力は並大抵ではなく、山崎の俳優としてのスキルを逆説的に際立たせているとも言えるだろう。