「皆殺し映画通信」10周年! 柳下毅一郎『皆殺し映画通信 死んで貰います』刊行記念トークイベントレポート
映画評論家・柳下毅一郎氏が日本映画を忖度抜きで論じていく「皆殺し映画通信」。記念すべき10作目となる『皆殺し映画通信 死んで貰います』の刊行を記念したトークイベントが開催された。ゲストは、柳下氏の翻訳書籍をはじめ、数々の映画書籍を世に贈り届けてこられた国書刊行会編集部の樽本周馬氏。今回はイベントレポートをお届けする。
書籍編集者の立場から見た「皆殺し映画通信」シリーズの“ありがたみ”
去る6月10日(土)、西荻窪今野書店にて「皆殺し映画通信」の10周年を記念したトークイベントが行われた。
魑魅魍魎な映画たちを、映画考現学の立場から発掘、解剖、保存してきた柳下氏がゲストに迎えたのは、国書刊行会編集部の樽本周馬氏。柳下氏が翻訳を手がけた『ジョン・ウォーターズの地獄のアメリカ横断ヒッチハイク』(2021年)をはじめ、これまで数々の映画本を世に送り出してきた。
トークでは、樽本氏が書籍編集者の立場から「皆殺し映画通信」シリーズの資料としての価値について言及。同シリーズで取り上げられているような作品(とりわけ地方映画)は、ソフト化も配信もされず、年月が経つとホームページすら消えてしまうケースも。
「でも一度紙にしたら100年は残る。今後、『皆殺し映画通信』でしか存在が確認できないような映画も増えてくるだろう。その点、この本は映画を救うという側面を持っている。10年続けたことで、柳下さんの仕事のありがたみが出てきているのではないか」(樽本氏)
樽本氏の言葉を受けた柳下氏は、映画が劇場ではなく配信で消費される傾向が年々強まっていることを踏まえ、『皆殺し映画通信』が取り上げるような、日本のエクスプロイテーション※の存在感が高まっていると指摘。
「日本のエクスプロイテーションはとても特殊で、観客ではなく、スポンサーに向けて作られている。その最たる例は、地方映画や企業のプロモーション映画。基本的にそうした作品は、劇場で上映する、あるいはDVD化するのが最終的な目標であり、地方限定の配信などは基本的にありえない。映画館で作品を公開するメリットが希薄になっていく中、実は最後まで生き残る映画ってこれなんじゃないか、と思うわけです」(柳下氏)
※エクスプロイテーション
興行利益中心の目的で特定の層を狙って作られた、見世物要素がある映画。「エクスプロイテーション」とは「搾取」を意味し、観客から金を搾り取るという意味合いがある。参考書籍に『興行師たちの映画史』(柳下毅一郎著、青土社)。