「素直に映画を発見したいという気持ちが強い」
柳下氏が語る映画評論家としてのスタイル

話題は移り、今年2月に逝去した映画評論家・山根貞男と柳下氏の仕事の対称性について。
樽本氏は、日本を代表する映画評論家の一人であった山根の批評を集めた『日本映画時評集成』シリーズ※の編集も手がけている。
「柳下さんは山根さんが取り上げない作品を積極的に論じている。また、世間のイメージとは異なり、柳下さんよりも山根さんの方が作品を貶す際の筆致がずっと辛辣」と語る樽本氏。
『日本映画時評集成』から某映画をこき下ろした文章を引用して読み上げ、会場からは笑い声が上がった。
続けて樽本氏は、柳下氏の評論文について「どんな映画を論じても、『もしかしたら面白いのかもしれない』と思わせてくれる瞬間がある」と語る。
それに対し、柳下氏は「一応、最初から貶すつもりで映画を観に行くことはない。素直に映画を発見したいという気持ちが強い。これは建前じゃなくて本音」と応答。
さらに、山根の最後の書籍となった『映画を追え: フィルムコレクター歴訪の旅』(2023草思社)に触れ、「『映画を追え』で描かれているのは、山根さんが失われた幻の映画を求めて、フィルムコレクターを訪ねてまわる話。めちゃくちゃ面白い本なんだけど、僕が
映画館に足を運ぶ時の気持ちは、幻の映画との出会いを求めて各地をまわる山根さんの気持ちに近い」と語った。
そこから話題は、樽本氏が「現存する日本の映画作家で最も好き」だと語る城定秀夫監督作品を、柳下氏が “発見”したエピソードから、「基本は1回だけ観てレビューを書く。メモはとるけれど保険のようなものでほとんど見返したりはしない」という柳下氏の執筆ス
タイルに至るまで多岐にわたり、会場に集まった映画ファン垂涎の時間となった。
※『日本映画時評集成』シリーズ
現時点で、『日本映画時評集成2000‐2010』(2012年)『日本映画時評集成 1976-1989』(2016年)、『日本映画時評集成1990-1999』(2018年)の3冊が国書刊行会より刊行されている。
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