佐藤浩市・横浜流星主演の映画『春に散る』が現在公開中。ノンフィクション作家の沢木耕太郎の小説を原作に、映画『ラーゲリより愛を込めて』の瀬々敬久監督がメガホンを取った。今回は、徹底的にリアルさを追求したボクシングシーンに手に汗握る本作のレビューをお届けする。【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】（文・寺島武志）

佐藤浩市が陰のある元ボクサーを好演

本作は沢木耕太郎の小説を映画化し、ボクシングに命を掛ける男たちの生き様を描いた人間ドラマだ。佐藤浩市と横浜流星がダブル主演を務めている。

主人公の1人である広岡仁一（佐藤浩市）は元ボクサーだったが、微妙な判定負けにより日本のボクシング界に失望して渡米するが、世界王者に届かないままグローブを置いた。その後、実業家に転身し、ホテル経営で成功する。

そんな広岡は心臓を患い、40年ぶりに帰国を果たす。自分に残された時間は少ないと悟ってはいるものの、広岡の心には未練がくすぶっているようだ。

かつて所属した真拳ジムは会長の娘である令子（山口智子）が引き継いでいた。そして、ともに“真拳ジム三羽ガラス”と呼ばれた残りの2人を探す。

その1人、佐瀬健三（片岡鶴太郎）は、ジム経営に失敗し、家族にも見捨てられ、田舎で独り、酒浸りの生活をしており、さらにもう1人の藤原次郎（哀川翔）に至っては、暴行事件を起こし、刑務所にいることが分かる。

広岡は、2人に共同生活を提案する。出所した藤原には断られてしまうが、佐瀬からは同意を得て、共同生活が始まり、そこに広岡の数少ない身内である姪の佳菜子（橋本環奈）も加わる。佳菜子を演じた橋本環奈は、重い運命を背負って生きながらも、献身的な女性を好演し、シリアスな役柄も十分にこなしたことで、俳優としての新味を見せている。