雫と聖司の出会いのきっかけが異なる理由とは?
「カントリー・ロード」が重要な役割を果たすアニメ版と、同曲が一切登場しない実写版では、雫と聖司の出会いのシーンが微妙に違う形で描かれる点にも注目したい。
アニメ版、実写版ともに、校庭に面したベンチで初めて言葉を交わすという点は変わらない。しかし、アニメ版の聖司が雫の書いた「カントリー・ロード」の替え歌(「コンクリート・ロード」)を揶揄するのに対し、実写版では雫がベンチに置き忘れたファンタジー小説を「子供っぽい」とからかう描写にアレンジされている。
聖司がからかう本のタイトルは『フェアリーテール』。アニメ版の熱心なファンであれば、劇中で雫が読んでいた本としてお馴染みだろう。こちらは架空の書物である。ともあれ、聖司に小馬鹿にされた雫が地団太を踏みながら発する“「やな奴」連呼”は実写版でもしっかり描かれているので、安心してほしい。
アニメ版とディティールが微妙に異なる実写版における雫と聖司の出会い。こちらの改変にもしっかりとした意図が見受けられる。「最悪の出会い」を果たした雫と聖司が、二度目に遭遇する場所は図書館である。読書にふける聖司の向かいの席に座った雫は、彼がファンタジー小説を読んでいることを見逃さず、「そっちこそ子供っぽいものを読んで」と反撃をする。
ファンタジー小説をめぐるやり取りが形を変えて反復されることで、明るみになるのは雫と聖司が「似た者同士」であるということだ。実写版『耳をすませば』では、若い男女が惹かれ合う過程を、アニメ版とは異なる形でオーソドックスかつ丁寧に描いている。もちろん観る者によって好みはあるだろうが、実写版は実写版なりの演出で雫と聖司の恋模様を繊細に描き出そうとしているのだ。