ホーム » 投稿 » 日本映画 » 劇場公開作品 » 海外の評価は厳しめ…? 映画 『君たちはどう生きるか』海外レビューを紹介。細部へのこだわりに絶賛も見落とせない欠点とは?

海外の評価は厳しめ…? 映画 『君たちはどう生きるか』海外レビューを紹介。細部へのこだわりに絶賛も見落とせない欠点とは?

text by 編集部

映画 『君たちはどう生きるか』は、日本で2023年7月14日に劇場で公開されると、4日間で興行収入21.4億円(動員135万人)を記録した。本作の人気は、日本だけでなく、海外でも注目されているようだ。今回は、米Movie Webに基づき、海外での映画 『君たちはどう生きるか』のレビューの一つをご紹介する。

宮崎駿の集大成
本作のテーマや欠点とは?

宮崎駿
宮崎駿Getty Images

日本のアニメ制作会社「スタジオジブリ」が、1985年に正式に設立された時、現在のようなアニメーション映画界の”巨頭”のひとつになることを知る者はいなかった。

スタジオジブリの代表的な作品は元々日本語で製作されていた。しかしその後、英語吹き替え版や、世界各地への配給活動により、彼の作品の多くがより幅広い人々に親しまれるようになっていった。

今では、映画『となりのトトロ』(1988)の森の主であるトトロや、映画『魔女の宅急便』(1989)の黒猫のジジなど、映画内で登場する一見変わったキャラクター達は、見る者にそう遠くはない、子供時代を思い出させてくれる、国境を超える愛されキャラクターとなった。

そして、そのスタジオジブリの顔と言える存在である宮崎駿監督。

彼は、映画製作を辞めると引退宣言をしていた。しかしその後に、彼の最後の映画作品として製作が行われたのが、映画 『君たちはどう生きるか』。

本作は2017年に、彼の製作進行中の作品であることが正式に発表された。その後、スタジオジブリのアニメーターと宮崎監督が、この映画を完成させるのに約5年を要した。

2023年のトロント国際映画祭でプレミア上映された後、ニューヨーク映画祭など他の映画祭でも上映され、全米公開が2023年12月に決定。

観客は伝説的なアニメーターでありストーリーテラーの遺作を固唾をのんで待つこととなった。

対して、日本では既に劇場で公開されており、そのストーリー、ビジュアル、サウンドトラックは高い評価を得ていた。

映画 『君たちはどう生きるか』の主人公である牧眞人(まきまひと)。彼は映画の冒頭、夜中に目を覚まし、母親が入院している病院が全焼していることに気づく。

母親は火事で亡くなり、父親は妻の妹と再婚。眞人は父と共に東京から母方の実家がある田舎に疎開し、継母の夏子と出会う。

当初彼は、突然自身に身に起きたその複雑な境遇を受け入れることができずにいた。毎晩眠りにつくと、亡くなった母が「眞人、助けて」と真人に話しかける夢を見る。

また、疎開先の広大な屋敷に訪れた初日に、眞人が池で見つけた青サギは、彼の部屋の窓辺に現れ続ける。この青サギは、眞人と会話することでき、眞人の夢の中に現れた母が話す「眞人、助けて」という言葉を真似し始める。

眞人の父と夏子は、眞人を新しい学校に入学させるが、クラスメートと馴染めずケンカをしてしまう。その後眞人は、自分自身で石を頭にぶつけて寝たきりとなる。青サギは、「母があなたを待っている」と、眞人をなじり続ける。同時に、かつて母が暮らした空間に自分がいるという事実に直面し始める。

そんなある日、夏子が一人で森の中へと入っていくのを見つけた真人は、屋敷の中で働く老婆たちの一人と共に、夏子を追いかける。そこで見つけたある廃塔が、異世界への魔法の扉であることが判明し、真人は夏子を見つけ出すため、扉の中へと入る。

映画 『君たちはどう生きるか』の見どころのひとつは、そのアニメーションのスタイルにある。

スタジオジブリのファンなら、特にキャラクターのビジュアルや、シーンの移り変わりに関して、前作と変わることのない、馴染みのあるジブリスタイルが見られることに歓喜。

特にファンタジー世界の表現に使用される色鮮やかな色彩は、観るものを大いに楽しませる。

さらに、他のスタジオジブリ作品でも、多くの人がSNS上で話題にするように、作品内で登場する食べ物は、依然として美的感覚に非常に富んでおり、作品の細部へのこだわりを証明する。

途中、登場キャラクターの一人が、眞人が吸い込まれた異世界と、彼がいた現実世界はとても似ていると発言。異世界で登場する老婆の人形にしろ、異世界と現実世界の繋がりを見抜かなければ、わからない筋書きにしろ、映画 『君たちはどう生きるか』は、細かい視点と大きな視点を織り交ぜて作られている。

同時に、本作の欠点と言えるのは、あまりにも多くのことをやろうとし過ぎていることだ。

この映画は、視覚的に美しく、物語の至るところに優れたテーマが散りばめられている。

しかし、シーンから次のシーンへと素早く移り変わるため、視聴者は強い注意を払わなければならない。内容を理解するためには、スピーディーに導入されている細部のこだわりに没頭する必要がある。

本作の内容が持つ複雑さや、124分という時間に、多くのテーマを詰め込んでいることを考えると、この作品を一度の視聴だけで理解するのは困難となる。長い目で見ればそれは大した問題ではないが、瞬間的には視聴者を困惑させてしまうかもしれない。

また本作は、宮崎駿監督が、他の多くの映画作品で手掛けてきたものと同様に、一人の「少年の目」を通して世界についての様々なテーマに取り組んでいる。

特に第二次世界大戦を舞台にした本作は、それがファンタジーの異世界と現実世界との対比のポイントとなる。ファンタジーの世界で構築された異世界は、表面的には良いように見えるが、実際にはそうではない。世界のどこにも完璧なものなどないのだ。

さらに本作は「悲しみ」を取り扱った映画でもある。

母親が不慮の事故で亡くなり、父親が母親の妹とすぐに再婚したという事実に眞人は直面。実の母を失った悲しみを乗り越え、今の状況を受け入れるようになるまでの眞人の変化を描いているのだ。

心の葛藤は、私たちが下す決断によって生まれる。映画の中で彼は前進することを選択し、より勇敢となる。

全体として、映画 『君たちはどう生きるか』は、スタジオジブリの古典的な思い出を蘇らせる、見ていて楽しい作品となった。人食いインコが包丁を振り回し、眞人をシチューの具にしようとする場面や、眞人が魚の切り分け方を学ぶ場面など、多くの名場面が登場する。

映画 『君たちはどう生きるか』は、2時間の上映時間を通して、見応えのある作品であることは間違いない。長年の映画監督としての修行と思索を経た宮崎監督の作品として、より成熟しているように感じられる作品となった。

【関連記事】
スティーヴン・スピルバーグ監督「史上最高の冒険映画のひとつ」宮崎駿の初期作『ルパン三世 カリオストロの城』海外でベタ褒め
これは惚れる…! 最高にかわいいジブリヒロイン5選。声優は誰? 老若男女に愛される名キャラを解説
大爆死! 大赤字のアニメ映画…歴史に残る失敗作5選。ジブリもディズニーもやらかしていた! 大コケの理由を深掘り考察

error: Content is protected !!