心に沁みる… 「人間の分からなさ」を描く演出とは? 映画『アンダーカレント』徹底考察&解説。忖度なしガチレビュー
text by 司馬宙
恋愛映画の騎手・今泉力哉。前作『ちひろさん』では、有村架純を主演に迎え、人間の孤独を描出した。そんな彼が今回挑むのは、「映像化不可能」と言われた伝説の漫画『アンダーカレント』。今回のレビューでは、世界中でカルト的な人気を誇る漫画の実写化した本作のレビューを紹介する。(文・司馬宙)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
心の底を流れる仄暗い底流
豊田徹也の伝説的な漫画の実写化
『アンダーカレント』は、特別な漫画だ。それは、この漫画が「漫画界のカンヌ映画祭」とよばれるフランス・アングレーム国際漫画祭への選出をはじめ、数多くの栄に浴していることや、物語が「映画みたい」だからといったこととは必ずしもイコールではない。おそらくこの漫画には、人の心の琴線に触れる何かがある。だからこそ、長年にわたって多くの人々を惹きつけてやまないのだ。
本作は、過去に夫を失踪で失った女性と、その水面下での人の心の揺れ動きを描いたヒューマンドラマ。監督は、『愛がなんだ』(2019年)や『ちひろさん』(2022年)で知られる今泉力哉で、主演の真木よう子のほか、井浦新や永山瑛太ら実力派が脇を固める。
ストーリー自体は、そこまで突飛なものではない。
主人公は、若くして銭湯「月乃湯」を引き継いだ女主人、関口カナエ。彼女は、夫の悟とともに銭湯を運営し、順風満帆の日々を送っていたが、突然夫が失踪してしまう。そんなカナエのもとにある日、堀と名乗る謎の男がやってくる。困惑するカナエに「ここで働きたい」と告げる堀。ここから、2人の奇妙な共同生活が始まるー。
一体なぜ、人は本作に惹きつけられるのか。それは本作が、「人間の分からなさ」という普遍的なテーマを、心の底に流れる底流(アンダーカレント)というモチーフで描出しているからだろう。