池松壮亮が一人二役に挑む映画『白鍵と黒鍵の間に 』。昭和レトロな夜の銀座を舞台に、名曲『ゴッドファーザー 愛のテーマ』を巡って2人のジャズピアニストの人生が交錯する魅惑のストーリーだ。“白鍵と黒鍵の間”とは何を意味するのか。様々な要素がジャズのように響き合う本作の魅力に迫る（文・野原まりこ）【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】

ジャズを愛した監督が創り上げた世界

昭和末期・夜の銀座を舞台に、池松壮亮が一人二役のジャズピアニストを演じる、型破りで魅惑の映画『白鍵と黒鍵の間に』。

現役ジャズミュージシャンでエッセイストの南博の青春記『白鍵と黒鍵の間に -ジャズピアニスト・エレジー銀座編-』をもとに、現実と幻想の間を交錯する一夜を描く。

ピアニストとしてキャバレーや高級クラブで演奏をしてきた彼の日々を綴った刺激的な日常を、共同脚本の冨永昌敬監督と高橋知由が、主人公を“夢を追う博”と“夢を見失った南”という人物に分け、3年の月日を一夜の出来事として描くという大幅なアレンジを加えた。

そんな本作のジャンルは、一つに絞ることができない。

ファンタジーでもありコメディでもありスリラーな一面も含む。音楽映画でもあり、ヒューマンドラマでもある。まさに複雑な音色が重なり合うジャズのような物語の展開と、豊かなサウンドに包まれる魅惑の映画に仕上がっている。

そして汚い欲望が渦巻く夜の銀座で、理想と現実のギャップに打ちひしがれる2人の男を池松壮亮が繊細に演じ分ける。

共演には、森田剛、仲里依紗、高橋和也、クリスタル・ケイ、松尾貴史、松丸契、川瀬陽太、佐野史郎らが名を連ね、時にコミカルに、時にシリアスに人間の白と黒の部分を巧みに演じ分けた。

池松壮亮がピアノを弾き、クリスタル・ケイが歌い、松丸契がサックスを奏でる。そんな本作のハイライトも目を見張る。

次の章ではあらすじを紹介しよう。