「林くんは本当に『完璧』だった」
役づくりと現場でのエピソード
―――現場でのお話は後ほどお伺いするとして、林さんが最初に、脚本を読んだ時の印象が気になります。
林「この映画では、3人の登場人物がそれぞれの悲しみや寂しさを背負って、時にはすれ違い、時には深く関わったりを繰り返すわけですが、脚本を最初に読ませてもらった時は、『どのような結末に落ち着くんだろう』と、ドキドキしながらページをめくりました。
そして、書かれていた結末は、僕にとってすごく良い方向に収まったと思えるもので、心が温まりました。それと同時に、完成した映画を観たお客さんも、きっとこういう気持ちになるんだろうなと思いました」
―――本作は一般的な映画に比べて、キャラクターの心情やバックボーンがセリフで説明されることが少ないですよね。その点、観る人は想像力が試されるわけですが、それは役を理解する上でも重要だったかと思うのですが、いかがでしょうか?
林「フユは、自分とは、正反対の環境で育った人。役づくりに取り組むにあたり、まずは、フユと似たような恵まれない環境で幼少期を過ごされた方のインタビュー記事などを読んで、役のイメージを落とし込む作業をしました。とはいえ、当事者の方の言葉に触れても、結局は想像力でしか補えないといいますか、役を演じるためには、想像でなんとかするしかない。
フユが秋に対して抱いていた感情や、見つかるはずのない母親に対してどういう気持ちを抱いて生きてきたのだろうとか、普段自分が日常生活を過ごす中で気付いたことを手掛かりに、役の気持ちを理解しようと励みました」
―――林さんのふとした身振りにも目を惹かれました。リズミカルな歩行はもちろん、走るシーンでは瞬発力が伺えました。どのようにしてフユの動きを考えていきましたか?
林「台本の読み合わせの時に監督から役のイメージを伺って、それを基に自分なりに色々考えてやってみました」
―――麻美監督はどのようにしてイメージを伝えられたのでしょうか?
麻美「グザヴィエ・ドラン監督の『Mommy/マミー』の主役の男の子。『彼はトゥーマッチだけど、あの子のような軽やかさが欲しいな』っていうことを伝えたと思います。偶然にも撮影に入る直前にドランの特集上映があって、そこで観てもらいました。巡り合わせを感じましたね。
いざ撮影に入ると、林くんは本当に『完璧』って感じで、動きも表情も私から言うことはほとんどなかったですね」
―――林さんの自発性を信頼していらしたんですね。役者さんに伸び伸びとお芝居をしてもらうにあたり、どのようなことを意識しましたか?
麻美「超褒めました。もちろん無理してではなく、お芝居が本当に素晴らしかったので。また、僭越ながら勝也さんのことも褒めました。『最高の芝居ですね』って。言われ慣れていると思うんですけどね」
―――麻美監督は、役者としてもご活動されていますが、演者の気持ちに寄り添うことができるという点は、監督する上でも大きな武器になりそうですね。
麻美「それはあると思います。あと、林君って普段のテンションがフラットで、喜んでいても露骨には表情に出さない人なんですけど、たまにパッと雰囲気が明るくなる時があって。『あ、今、喜んでいるんだな』と察知して、こっちが嬉しくなるという(笑)」