「作品全体を俯瞰する気持ちで撮影に臨んだ」
主演俳優としての心構え
―――麻美監督に伺いたのですが、ストップモーションを使ったタイトルの出し方は、他の映画ではあまり観たことがなく、とても斬新だと思いました。しかもこのカットは、背景がとても重要ですね。どのような思いで、このような演出をなさったのでしょうか?
麻美「実は当初、窓ごしにフユと秋がすれ違うショットにしたくて、実際に撮影もしたんですけど、上手くいかなかったんです。それで代替案としてご指摘のショットを撮ったのですが、このカットが印象的なものになったのは、音響の力が大きいです。
今回、現場の録音から音響効果に至るまで、録音技師の柳田耕佑さんが担当してくださったのですが、ストップモーションになった瞬間、他の音が絞られる中、空気音だけ残してくださいまして。
おかげで、画面の運動は止まるのですが、2人が吸っている空気の流れは止まっていないということが、さりげなく表現できたと思っています」
―――映画館で観るからこそこだわりが堪能できるシーンになっていると思います。本作は編集にも工夫が凝らされているわけですが、林さんは完成した作品をご覧になって、どのような感想を持ちましたか?
林「これは監督にも直接お伝えしたんですけど、完成した作品は、事前に僕が思い描いていたものとよく似ていたんです。現場でモニターを通して自分のお芝居を逐一チェックしていたのも影響していると思うのですが、今回の現場では、撮影中、頭の中で『このカットはこう繋がっていくのかな』とよく考えていたんです。
今回、主演を務めるにあたり、作品全体を俯瞰して撮影に臨むという心構えが必要だと思いました。撮影しながら『このシーンは、映画館で見たらどんな感じに映るのだろう』と想像を働かせていたんです。
それもあって、初めて完成した作品を観た時、撮影中に頭の中で思い描いていたイメージとシンクロする部分があったんだと思います」
―――映画全体を俯瞰で見る。そうした意識で現場に臨むのは今回が初めてだったのでしょうか?
林「はい、そうですね 。監督は映画の全てに責任を負わなければいけない。それに対して、役者は自分が演じる役に対する責任だけ負えばいい、という考え方があると思うんですけど、今回は自分がずっと映ることになるわけだし、フユっていう役を演じるだけではダメなのかなって思ったんです。
もちろん俯瞰して見ることが大事と言っても、結局、僕自身の主観でしかないんですけどね。でも、そういう意識を持つことで、自分のお芝居も客観的に見ることができますし、スタッフの皆さんとの関わり方も随分変わるので、今後もそういう意識は大事にしていきたいと思っています」