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ただのエロじゃない!? 映画『春の画 SHUNGA』編集者/評論家・山田五郎✕浮世絵研究者・石上阿希トークイベントレポ

text by 編集部

11月24日公開の春画の奥深き世界に迫るドキュメンタリー映画『春の画SHUNGA』。本作の公開に先駆けて、ゲストとして山田五郎(編集者・評論家)と、本作の出演者でもある石上阿希(浮世絵研究者)を迎えたトークイベント付き試写会が開催された。単なるエロティシズムだけではない、多彩な表現内容、技巧、春画の創造性に迫る!

「春画」は贅と粋を凝らした浮世絵美術の最高峰。
江戸時代の男性のためのエロ本ではない。

『春の画 SHUNGA』
©2023春の画 SHUNGA製作委員会艶本美女競渓斎英泉画浦上蒼穹堂

【内容】

エロティシズムだけではない、多彩な表現内容、技巧、その創造性!
100点以上に及ぶ春画と、国内外の美術コレクターや浮世絵研究家、美術史家、彫師、摺師などへの取材をもとに、表情豊かに描かれる「性」と「生」を発見する驚きのドキュメンタリー。

【予告編】

『春の画 SHUNGA』

美術に造詣が深く、自身のYou Tubeチャンネル「オトナの教養講座」も大人気の山田五郎と浮世絵研究者の石上阿希が、ドキュメンタリー映画『春の画 SHUNGA』のトーク付き試写会に登場。

まず始めに、映画の感想について問われた山田は、「春画がどういうものか、どういう人々が享受してきたのか。そして現在、どういう人が研究しているのか。そういったことが丁寧に取材されていて、春画のことがよく分かるドキュメンタリーでした」と賞賛。

本作に出演もしている石上は「海外のコレクターなど貴重な人々の証言を聞ける。後世に残す意味のある、資料性の高い内容。春画のアニメーションも面白かった」と感想を述べた。

春画をテーマにした論文で日本で初めて博士号を取得した研究者である石上が春画に興味を持ったきっかけは大学生のとき。江戸文化のゼミに所属していた石上が図書館で調べものをしていたときにたまたま目にした春画に大きな衝撃を受けたという。

「一学生として、それまでは江戸時代の男性のためのエロ本だろうと思っていた固定概念がガラガラと崩されるようだった」(石上)。

山田は、講談社に勤めていたときに美術書の部署に異動。当時制作中のボストン美術館の大全集に「春画の巻」があり、多くのゲラを目にすることとなる。

「春画のレベルの高さに驚いた。エロスの部分よりも技術的な面に興味をまず持った。彫りも摺りも何もかも、浮世絵の最高峰の技術が惜しげもなく注ぎ込まれている。そこに衝撃を受けた」(山田)。

江戸時代に人々はどのように春画を楽しんでいたかという質問に、石上は「春画は出版物。でも基本的には公には出版してはいけないという時代。店頭にはなく、貸本屋を通じて、作り手から読み手まで直接届けられるものだったんです」と春画の流通網について語ると、司会のアートテラー・とに~が「現代の TSUTAYA DISCAS のようですね!」と反応。

なお、春画は通常の貸本よりは2割ほど高めの値段設定になっており、また、汚すと追加料金、又貸し禁止、当時はろうそくの灯りで読まれていたことから、蝋がついたら弁償などといった細かいルールもあったとのこと。

春画の借り手は必ずしも男性というわけではなく、日中に家にいる女性が貸本屋から直接借りることも多々あったようだ。

春画にも様々な種類があり、お金持ちが発注して描かせる豪華な一点物の肉筆春画もあれば、庶民が持つタンスに仕舞い込めるような小さなサイズのものもあった。

かつては嫁入り道具として、夫婦和合・子孫繁栄を祈るものでもあり、なかには“これを持っていれば旦那さんが浮気をしない”というおまじないのようなものとして、春画は日常的に重宝されていたという。

山田曰く、西洋にも春画と似たようなものがあったとして「イタリアでは嫁入り道具としてカッソーネという衣装箱を娘に持たせていた。その箱の内側、あるいは時には外側に、日本の春画ほどダイレクトではないが、裸の絵が描かれている」と具体例を挙げた。

それも超一流の画家の手によるものであり、例えば、ヴェネツィア派を代表する画家ティツィアーノの名作『ウルビーノのヴィーナス』もおそらく横長の形からして、カッソーネ関連の絵だったのではないかと指摘。

日本の春画同様に、夫婦和合の意味が込められたものだったとのことで、「俺はこれを個人的には“ヤル気絵画”と呼んでいるんだけど。名家の場合は子孫をつくることが絶対条件だったわけですから、これをみて“やる気”をだしてくれということ」と独自の目の付け所で、西洋のなかにも春画的なものはあったと持論を展開。

そのうえで石上は、「日本の場合はそれを<出版物>として作っているのが特異」として、不特定多数に向けて、版元・絵師・職人たちが次はなにが受けるだろうかと、売れるものを企画し考えていた、つまり、マスメディアとして春画が成立していた点を指摘した。

ちなみに、幕末に日本にやってきた西洋人にとっては、日本の春画文化は不思議に見えたようで、たとえば考古学者のハインリヒ・シュリーマンは「日本人は礼儀正しいし潔癖なのに、なぜ混浴したり、女性たちが淫らな絵を見てみんなで笑っているのか」と、日記に残しているという。

当時の日本人のおおらかさがうかがえるエピソードだ。

最後、山田はぜひ伝えたいこととして「春画は贅と粋を凝らした浮世絵美術の最高峰。大英博物館の展覧会もあり、いまや春画は“アート”として扱われている。でもこの映画のなかで(現代美術家の)会田誠さんが話していることでもあるが、<春画を西洋のアートの仲間に入れてもらって喜ぶのは違うんじゃないの>ということ。そもそも“アート”という概念は近代になって作られたもの。それまではもっと日常的に楽しむものだったのが、今や美術館でガラス越しに観る教養として、高尚なものになっている。春画をそちら側に入れてしまうことがいいことなのか。近代的な“アート”という概念の持っている矛盾だとか欺瞞へのアンチテーゼとしての意味を考えるのが、今、春画を見る上で一番大事なことだと思う」と熱弁。

石上も「おっしゃるとおり。当時の人たちが春画をどう見ていたか。当時の人々の生活や考え、社会を知って、当時の文脈のなかで考えること。その上で、今の時代から見るという、この2つの目を持つことが春画を見る上で必要なんじゃないかと思う」と語り、山田は「それが今の人々の受けとめかた、価値観が果たして正しいのかということも考えるきっかけにもなる。江戸時代のほうが良かったということもきっと出てくると思う」とトークを締めくくった。

映画『春の画 SHUNGA』11/24(金)より
シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

『春の画 SHUNGA』
©2023春の画 SHUNGA製作委員会四季画巻月岡雪鼎画Michael Forniz

出演:横尾忠則 会田 誠 木村了子 / 石上阿希 早川聞多 浦上 満
アンドリュー・ガーストル ミカエル・フォーニッツ 橋本麻里 朝吹真理子 春画ール
ヴィヴィアン佐藤 樋口一貴 高橋由貴子 山川良一
朗読:森山未來 吉田 羊
監督:平田潤子
製作:中西一雄 小林敏之 企画・プロデュース:小室直子 プロデューサー:橋本佳子
音楽:原 摩利彦 撮影:山崎 裕 髙野大樹 録音:森 英司 阿斯汗 編集:鈴尾啓太 構成:檀 乃歩也
製作:『春の画 SHUNGA』製作委員会(カルチュア・エンタテインメント、TC エンタテインメント)
企画・製作:カルチュア・エンタテインメント 制作:ドキュメンタリージャパン 配給:カルチュア・パブリッシャーズ
©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会 【2023/日本/カラー/ビスタサイズ/5.1ch/121 分/デジタル/R18+】
※一部劇場では4K 上映
文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
公式サイト

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