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「映画の神様がついてくれてる」映画「花腐し」荒井晴彦監督・綾野剛・柄本佑・さとうほなみ登壇、舞台挨拶開催

text by 編集部

日活ロマンポルノの名作や『遠雷』(81)、『Wの悲劇』(84)、『ヴァイブレータ』(03)、『共喰い』(13)など多くの脚本を手がけた荒井晴彦の最新作「花腐し」の公開記念舞台挨拶が11月11日(土)テアトル新宿にて行われ、主演の綾野剛、共演の柄本佑、さとうほなみ、荒井晴彦監督が登壇した。

「映画の神様がついてくれてる」
公開初日に降っていた雨についてコメント

左から荒井晴彦 柄本 佑 綾野剛 さとうほなみ

斜陽の一途にあるピンク映画業界。栩谷(くたに)は監督だが、もう5年も映画を撮れていない。梅雨のある日、栩谷は大家から、とあるアパートの住人への立ち退き交渉を頼まれる。その男・伊関は、かつてシナリオを書いていた。映画を夢見たふたりの男の人生は、ある女優との奇縁によって交錯していくー。

ふたりの男とひとりの女が織りなす湿度の高い男女の物語――荒井晴彦が、『火口のふたり』(19)に続く自身4作目の監督作品として選んだ本作は、芥川賞受賞の松浦寿輝による同名小説に“ピンク映画へのレクイエム”という荒井ならではのモチーフを大胆に取り込み、原作の“超訳”に挑んだ意欲作で日本映画史に残ること必至!切なくも純粋な愛の物語。

本作のタイトルに引用された万葉集の和歌「花腐し」とは、きれいに咲いた卯木(うつぎ)の花をも腐らせてしまう、じっとりと降りしきる雨を表現しているが、劇中ではそのタイトル通り雨のシーンが印象的に登場する。それゆえか、本作が初日を迎えた 11月10日(金)に偶然雨が降っていたという事実に感慨深い様子を見せる登壇者たち。

まず綾野が「初日となった昨日はお昼以降、雨が降っておりまして。なんだかこの作品を雨で迎え入れてくれるような、恵みの雨だなと思いました。今日は天気はいいですが、本当に(映画が公開できて)感慨深いですね。皆さんにこの作品がどう受け止められていただけるのか、どう届いていくのか、その思いを大切にしています。

荒井監督が、この作品のことを、ひとつのレクイエム映画であると評されていましたが、終わりを迎えることと、はじまりを迎えることの連続で、この作品は存在してるなと。皆さんが観てくださることで作品が育っていくことがうれしくて仕方がありません」と感慨深い様子を見せた。

綾野剛

柄本も「映画の初日というのはやはりいろんな思いが錯綜するんですが、やはりうれしいですね。先ほど綾野さんがおっしゃった通り、昨日は雨がふっていて、『今日初日じゃん』と思ったら『なんかいいじゃん』と思って。

よく“映画の神様がついてくれている“と言いますけど、いい映画ってそういうのが味方してくれるんですよね。この作品にも映画の神様がついてくれているなと思います」とコメント。

さらにさとうが「わたしも同じことを思っていました。雨だなと思って、受け入れてくれているなと感じていて。実は今日も外に出たら、ちょっと雨が降っていて。今日も迎え入れてくれているんだなと思いましたね」としみじみ。

そして綾野が語った通り、本作は“ピンク映画のレクイエム”というテーマが内包されているが、そのことについて荒井監督は「取り戻せない過去というかね。取り戻せないということでハッキリしているのは、人が死んでいくことなので。

この歳になると、僕より下の連中、⻘山真治や斎藤久志なども死んでいったので。いつ自分の番なのかということがありますが。そういうこともあって、人がいなくなることに対する気持ちをやってみたいと思いました」とその思いを明かした。

一方のキャスト陣にとって、数々の傑作を手掛けてきた荒井晴彦との仕事は何事にも代えがたい魅力だったようだ。まずは綾野が「素直に荒井さんの現場に行きたいというのがありました。映画人の中に入っていろんなことを学びたいというのがありましたし、とにかく脚本から映画の匂いが沸き立っていた。

その脚本に出会えたのがうれしくて、ご褒美のような気持ち、畏怖心よりも、飛び込んでつくっていきたいと思った。そこに(柄本)佑くんと、(さとう)ほなみさんが参加すると聞いてたんで何よりでした」とコメント。

柄本も「やっぱり、ホンが面白かったし、荒井さんのファンだというのがシンプルな理由。それ以外はないかな……。綾野さんがおっしゃった通り、映画を感じられる現場。出来上がりも含めて、映画という中に仲間入りできる。

(柄本が主演した荒井監督の前作)『火口のふたり』もそうでしたが、それを感じられるので。スタッフの方も含めて、そういう方ともう一度お仕事できること。それと実は『火口のふたり』の時に心残りだったことが個人的にあって。もういちど荒井さんのセリフにチャレンジできるとも思って。これはやるべきだと思いました」と力強く語った。

柄本佑

そしてオーディションで抜てきされたさとうも、「皆さんがおっしゃったとおり、わたしも荒井監督の作品にたずさわりたい。オーディションには綾野さんも柄本さんもいらっしゃって。映画が好きいらっしゃるこの3人と一緒に作品をつくりたいという思いで挑ませていただきました」とコメント。

そんなキャスト陣の言葉を聞いていた荒井監督は、「綾野さんとさとうさんは、初めてだったんですけど、僕は初めての人は人見知りしてしまうんですよ。だから子どもの頃から知っている佑には、困った時の支えとしていてほしいなと思った笑。ういうわけで、ヒヤヒヤしながら現場に入ったんですけど、でも綾野さんは優等生でまじめで気配りがあって、驚きました」と述懐。

それを聞いた綾野が「誕生日が一緒なんですよね」と誘い水を向けると、荒井監督も「(オファーの際に)もし『出ない』と言われたら、誕生日が一緒だということで口説こうかと思ってた」とぶちまけて会場を沸かせた。

イベント中には、脚本を読んでみて荒井晴彦らしさを感じた時は?といった質問がさとうに投げられるひと幕も。「荒井さんっぽいって、俺のことなんか知らないもんな」と軽口をたたく荒井監督に対して、さとうは「いつも荒井さんはそういうことを言うんですけど、わたしは好きですからね!」とスパッと返してドッと沸いた会場内。

さとうほなみ

そんなさとうの“告白”に思わずニヤリとした荒井監督の姿を見た綾野が「めちゃくちゃうれしそうじゃないですか!」とちゃかしてみせて、会場は大いに沸いた。

インタビューなどで柄本は、『火口のふたり』の時の役づくりに関して、荒井監督を参考にしたことを明かしている。そのことについて触れられた柄本は「参考にしたところが多々ありますし、撮影が終わった後に荒井さんがソソソッと寄ってきて、『佑ににこんなに見られているとは思わなかった』とおっしゃっていたんです。それだけ集中していたというのもあるし、監督の仕草であったりとか、そういうのはやらせていただきましたね。

でも今回は綾野さんも(荒井監督を参考に役づくりを)やられていたんですよね?」と誘い水を呼ぶと、綾野も「間とか、(言葉を発するまでの)初速の遅さとか。鼻をすする仕草とか、そういうのは、すごくムードがあって色っぽいなと思っていたので。(綾野が演じる)栩谷って表情から出ている情報が少なくて。雄弁じゃないので」とコメント。

さらに「でも人って自分が感じることを表現できる人ばかりじゃないし、そういう人の方が少ないかなと思う。でも心は動いているから。そんな人を肯定したいというか。だからこそ僕たちも役者をやっているところはあります。自分が何者であるのかを表現できないからこそ、いろんな役を通して学んでいるんです。

栩谷は映画監督、伊関は脚本家、祥子は女優。関係を断ち切れない因果関係、もっと言えば親和性みたいなものがとても大切につむがれるべきだと思ったので、それならば目の前の映画人を見るのが一番説得力がある。だから荒井監督をずっと観察していました」とその役づくりについて明かした。

そんなトークも終盤となり、最後のコメントを求められた荒井監督は「今日は綾野ファンが多いと思いますが、皆さんが10回観てくれたら、なんとかなるかなと思うので。よろしくお願いします」とメッセージ。

続く綾野も「短い時間でしたが楽しかったです。この作品を届けるにあたって、いろんな思いがありました。作品の中でも、撮り方。フィックス(固定)で撮るとか、一見懐かしいノスタルジックな感じのする、昔観てきた映画の匂いがあった。だけどこの現代にこういう映画があるからこそ、映画って古くならないんだなと思えたんです。

映画のあり方をあらためて、実寸大で体感させてくれた。僕たち役者にとっても(大切な作品ですし)、皆さんにとっても大切な一作になったら幸いです。引き続き出会うチャンスがあったら、また観ていただきたいと思います」と呼びかけると、「荒井さんにはまた映画を撮ってほしいなという願いをこめて。この映画がより、僕たちが想像できないような育ち方をしたらと思っています」とこの映画に対する熱い思いを語った。

【作品情報】

出演:綾野 剛 柄本 佑 さとうほなみ
吉岡睦雄、川瀬陽太、MINAMO、Nia、マキタスポーツ、山崎ハコ、赤座美代子/奥田瑛二
監督:荒井晴彦 原作:松浦寿輝『花腐し』(講談社文庫) 脚本:荒井晴彦 中野太
製作:東映ビデオ、バップ、アークエンタテインメント 制作プロダクション:アークエンタテインメント 配給:東映ビデオ
2023年/日本/137分/5.1ch/ビスタ/モノクロ・カラー/デジタル R18+ ©2023「花腐し」製作委員会
公式サイト
Twitter:@Hanakutashi1110

テアトル新宿他にて全国ロードショー中

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