「今までとは違う映画作りのアプローチをしている」
緒方貴臣監督オフィシャルインタビュー
【緒方貴臣監督 プロフィール】
1981年福岡市生まれ。独学で映像制作を始め、社会問題を独自の視点と洞察力で鋭く切り取った作風によって、世の中へ問題提起を続けている。『子宮に沈める』(13)は、大阪2児放置死事件を基にした作品で、児童虐待のない社会を目指す「オレンジリボン運動」推薦映画となる。
『飢えたライオン』(17)では、第30回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門への選出を始め、バレンシア国際映画祭では最優秀監督賞と最優秀脚本賞をダブル受賞、富川国際ファンタスティック映画祭では最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)を受賞し、20 を超える国際映画祭に正式招待される。
・本作制作のきっかけをお教えください。
「10年ほど前にSNSで見た、義足の海外のモデルの人の1枚の写真を見て、義足をかっこいいと思ったのがきっかけです。
それまで義足というのは、医療用だったり、障がいの身体的な不自由さを補うための道具という認識だったんですが、車椅子や義足がカッコ良くなりうるという気づきがあり、それを映画にしようと思いました。
僕は、障がいというものを弱いものだとか可哀想なものとして描かないということを強調して企画を進めていたんですけれど、当時のプロデューサーも色々理由があったと思うんですが、お金を集めるために、僕から見ると障がい者を可哀想な人として利用しているように見えたんです。
それで意見が合わなくて一度このプロジェクトはお蔵入りしていたんですが、去年(新たなプロデューサーになった)榎本桜さんと会って、新しく音羽の物語として企画を進めることになりました。
・音羽のモデルはいるんですか?義足や足をなくした方の取材などはしたのでしょうか?
「音羽のモデルはいません。日本で初の義足モデルと言われているGIMOCOさん、義足モデルとして活動されている海音さんに取材させて頂きました。
この物語を作る上では、海音さんのことを全く調べずに音羽の物語として作ったんですが、初稿が出来上がったタイミングで、海音さんに取材をさせて頂き、音羽と海音さんの人生が似ているなと驚きました。取材を通して、リハビリのことやメディアが描く義足の間違った描写などを冒頭のドラマパートに反映しています。
取材で一番大きかったのは、義足の監修で入って頂いた、義肢装具士の臼井二美男さんです。工房を取材させて頂き、医療用のものからショー用の義足から、色々と見せてもらい、この映画のディテールが埋まっていったと思います」
・冒頭、音羽がマネージャーさんに「足は隠せる?」と頼まれるシーンがありますが、足を隠すのであれば、わざわざ義足のモデルを使わないことが多いのではないかと思うのですが、実際そういうことはあるのでしょうか?
「実際にあるかはわからないです。これは取材したときに言われたことではないんですが、義足モデルは、今の日本だと、パラリンピックの時など特定のテーマや場所じゃないとなかなか起用されないんですよ。そうじゃない時は義足である必要がない。けれど、義足は中心部がパイプ構造なので、カバーを装着すれば、見た目的にはわからないようにできるんです。
音羽は、元々義足がきっかけでモデルの業界に入ったけれど、そんな仕事がない時は、義足ということを表立って主張しないでモデルとして仕事をしている、という設定にしました」
・本作は、音羽だけでなくマネージャーの成長物語でもあると思いましたが、マネージャーの唯も描いた理由を教えてください。
「唯は僕なんです。一枚の写真で、義足というものがかっこいい、ポジティブなものになるという気づきがあったから、音羽を通してそのことに気づく唯に、僕を重ねました。基本的に僕の私服は全身黒なんですが、唯にも黒い服を着てもらうことで、ヴィジュアル的に重ねるようにしました。
そして観客に一番感情移入してほしいところは、実は唯なんです。障がいを可哀想だとか触れていはいけないものと思っていたけれど、隠さずに表に出していくことによって、ポジティブなもの、かっこいいものになりうるんだという気づきに繋がればと思います」
・義足を障がいの象徴ではなく、個性として捉えてほしい」というセリフがありますが、そのセリフに込めた想いをお教えください。
「僕自身が最初義足を決してかっこいいものとは思っていなかったし、人によっては隠すものと思っている人もいるかもしれない。
僕がそれをかっこいいと思えたのは、見た目だけのことではなくて、見せることができるというその人の内面が反映されているからだと思うんです。そのセリフを発したプロダクトデザイナーの役は、自分に障がいがあるわけではないけれど、それをわかっていると表現しました」
・音羽役の伊礼姫奈さんのキャスティングについて教えてください。
「実際に会う前に写真と映像資料を見た時から、彼女は良いなと思っていました。
音羽は、16〜17歳の思春期特有の、少女から大人になる過渡期で、そのどちらも併せ持ち、なおかつ社会が求める女性的なところではない美しさや魅力を感じさせるという主人公像がありました。彼女の写真を初めて見た瞬間、「ああ、この子だ」と発見したような気持ちになった記憶があります。
・読者にメッセージをお願いします。
「今までとは違う映画作りのアプローチをしているので、僕の今までの作品を見ている人には、そこに気づいて頂きたいです。今まで僕の映画を「怖い」だとか「見たくないものを見せられるから」と敬遠していた方にとっては、今までよりだいぶ観やすい作品になっているので、ぜひ劇場に観に来て欲しいと思っています。
この映画でも過去作と同じく、ジャーナリズム的な要素を入れています。この映画が色んな人にとっての気づきになり、社会を変えるきっかけになりうるんじゃないかと思っています。
映画館は、色んな他者がいる場所で、社会の小さな縮図だと思っています。同じ作品を観ても、捉え方は人それぞれです。でもそれが社会であり、他者を理解する第一歩だと思っています。ぜひ劇場で観て頂ければ幸いです」
【STORY】
12歳の時に病気で片脚を切断した音羽。その後も入退院を繰り返し、中学校の卒業式にも参加できなかった。そんな音羽のために、クラスメイトたちがサプライズの卒業式を病院の屋上でして、その動画がSNSで話題になり、音羽にモデルのオファーが舞い込む。義足の女子高校生モデルという特異性もあり、一時的に注目されるも、その後のモデルとしての仕事は義足を隠したものばかりだった。
一方、マネージャー・唯は、音羽と一緒に義足のファッションブランドで「義足を障がいの象徴でなく、個性として捉えてほしい」という理念を聞き、心を動かされる。義足をもっと押し出していこうと決める二人。やがてファッションショーに出演できるチャンスがやってくるが…
【作品情報】
伊礼姫奈
辻千恵 泉マリン 太田将熙 輝有子
佐月絵美 三原羽衣 田口音羽 山本海里 梶刀織
アライジン 小関翔太 イトウハルヒ 中村颯夢 嶋貫妃夏
筒井真理子
監督:緒方貴臣
脚本:脇坂豊、緒方貴臣
撮影監督:根岸憲一
照明:佐藤仁 録音・MA:岸川達也
助監督:中根克 美術:ぐちこ/榎本桜
スタイリスト:後原利基 ヘアメイク:Risa CHINO
小道具:伊藤由紀 編集:澤井祐美
音楽:田中マコト、菱野洋平(WALL)
制作:杉山晴香、箱田准一、長谷川穣
義足監修:臼井二美男
グラフィックデザイン:木下デザイン事務所
プロデューサー:榎本桜、緒方貴臣、塩月隆史、杉山晴香、夏原健、森山風歩
製作:paranoidkitchen、リアルメーカーズ、ラフター
配給:ミカタ・エンタテインメント
2023年/日本/カラー/16:9/5.1ch/61 分
©2023 映画『シンデレラガール』製作委員会
公式サイト
公式X
公式Facebook
【関連記事】
「映画が一つの人格を持つ」映画「TOKYO,I LOVE YOU 」中島央監督、独占ロングインタビュー
「春画が否定された頃、映画の歴史が始まった」映画『春画先生』塩田明彦監督、単独インタビュー。映画づくりに向ける思いを語る
そこにゴジラへの愛はあったのか? 映画『ゴジラ−1.0』は「ご都合主義がエグい…」。忖度なしガチレビュー