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「無意識の偏見について考えるきっかけに」映画『隣人X -疑惑の彼女-』熊澤尚人監督インタビュー。上野樹里×林遣都の話題作

text by 山田剛志

第14回小説現代長編新人賞を受賞したパリュスあや子の小説「隣人X」を、上野樹里と林遣都の共演で映画化した『隣人X -疑惑の彼女-』が12月1日(金)より公開される。今回は、熊澤尚人監督のインタビューをお届け。作品に込めた思い、久しぶりの顔合わせとなった主演の2人について、たっぷりとお話を伺った。(取材・文:山田剛志)

「原作の一番大切なところは絶対に曲げない」
原作者の理解を得て進めたシナリオ作業について

写真:武馬玲子 0242
写真武馬玲子

―――本作はミステリー映画であり、恋愛映画でもあり、社会的な問題も入っていますね。原作はパリュスあや子さんの小説『隣人X』ですが、プレス資料によると、小笠原宏之プロデューサーが本作の映画化を企画され、そこから熊澤監督に話が来たそうですね。

「『この小説が凄くいいんですけど、映画化は難しいと思いますが、もしよければ読んでみてください』っていう感じで小説を渡されたのが最初でした。恐らくプロデュサーは映画化の切り口を思い付くことが出来ず、困っていたんだと思います」

―――最初に読んだ時の印象はいかがでしたか?

「とても現代的で面白いと思いました。しかし、これを映画化するのは凄く大変というか、どうやったら映画になるのかなとも思いました」

―――原作のどのあたりにそのような印象を受けられたのでしょうか?

「原作は、3人の主人公を軸に物語が進んでいきますが、日本映画だと群像劇の企画を通すのがとても難しいんですよ。色んなプロデューサーの方がいますけど、群像劇だと言った時点で、内容にかかわらず『無いね』って跳ね除けられるケースが多いのです」

―――企画を通す上でどのような工夫をなさったのでしょうか?

「原作小説では、女性3人の物語を通じて、無意識の偏見というテーマが描かれています。

初対面の人を色眼鏡で見てしまうことって、多かれ少なかれ誰にでもある。僕は原作のそうした部分に強く惹かれたので、それを大切にしながら、映画版『隣人X』がどうやって脚色したら可能なのかを考えました。

実は、上野樹里演じる良子を林遣都演じる笹憲太郎が疑いながら追っていくという話は原作には全くないのです。週刊誌の記者である笹が『もしかしたら彼女はXかもしれない』と疑いながら良子に近づいていく。

その過程で、徐々に彼女のことを好きになってしまう。そういう話に変更すれば、映画的に面白いのではないかと思い、プロデューサーに提案したのが始まりでした」

―――原作が提示する無意識の偏見というテーマに惹かれつつ、群像劇の企画は通すのが難しい。そんな中、原作では脇役である笹を物語の中心に据えれば、テーマもより深掘りできて、尚且つ、男女の物語にフォーカスできると思われたわけですね。

「原作の核となる部分を大切にしながら、構成や切り口を変えて、同じ題材にアプローチする方法は、海外の映画でもよく見られます。

とはいえ、原作者のパリュスさんに『嫌です。それは違います』って言われれば、『すみません、ダメですよね』って諦めるほかないのですけどね」

―――プレス資料の監督インタビューによりますと、パリュスさんは全く違うリアクションだったそうですね。

「はい。最初に僕の意図を反映させた具体的なプロットを書いてお送りして、『原作の核となる部分を大切にしたい』という気持ちもお伝えした上で、『例えばこういう風に変えれば、映画化出来ると思うのですが、どうでしょうか?』とご提案したところ、『なるほど。わかりました』と理解していただけました。

それ以降、シナリオの初稿を書き終えた時点でお見せしてご意見を伺うなど、意見交換をさせていただきながら物語を作っていきました。そういう意味では脚本作りはいい形で進めることができましたね」

―――原作ものを手掛ける場合、原作のエッセンスをいかに映画に落とし込むかが重要になってくるのですね。

「原作の一番大切なところは絶対に曲げない、ということは常に意識しています。根幹にあるテーマをしっかり理解した上で実写映画用にいろいろ考え直してみる。

それが上手くいくと、原作者の方にも凄く喜んでもらえる。過去には原作者が感動して泣いてくれたこともあって、それは本当に監督冥利につきますよね。

他にも『このように結末を変えたいと思うのですが、どうでしょうか?』と伝えたところ、『面白いですね』って言っていただけたこともあります。

一方、『一言一句変えて欲しくない』っていう方も当然いらっしゃいますので、作家先生によってまちまちではありますけどね」

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