「一番大切なテーマは日常と地続きにある」
原作とは異なる結末を用意したワケ
―――本作はあらゆる世代の人に向けられた作品だとは思うのですが、とりわけ若い世代に観てほしいというお気持ちもあるんじゃないかと思いました。SNSの隆盛によって、特に若い世代において、異なる価値観に対する寛容さが失われているような気がしています。その点、熊澤監督が以前お撮りになった『ユリゴコロ』(2017)も想起しました。同作では「人間の死」を心の拠り所にして生きる女性が主人公でした。
「『ユリゴコロ』で吉高由里子が演じた主人公を個性って言ったら、『人を殺すのが個性であるわけがないでしょ』って言われるかもしれないけど、あれは極端な例であって。
今仰ってくれたように、日本では人と違うっていうことをマイナスに取る風潮が強いですよね。でも僕個人としては、『別にみんな一緒じゃなくていい』と思える社会の方がいいと思っています。
『みんなと一緒じゃないと不安』みたいなことって、ここ数年より露呈していますよね。日々のニュースを見たり、色んな事件の報道に触れるたびに、そうしたことを強く感じます。
『ユリゴコロ』は極端ではあるのだけど、日本にいる外国人に対して、もっと緩やかで寛容な態度が取れないものかという思いを本作に込めたのは確かです」
―――上野樹里さん演じる良子は、熊澤監督が仰った、緩やかな寛容さを体現しているような役ですね。
「『もっとこうしたら?』って周りから言われたとしても、彼女のように『でも自分はこれを大切にしているから』って自分の価値観を尊ぶ姿勢は、今、ちゃんと見直されるべきじゃないかと感じています。
一方の笹はその対極にいる人。上司の意見や世間の目を気にするあまり、自分は一体どうしたらいいんだろうと迷いに迷う。それが良子と出会うことで、変化し始めるのだけれども、選択を間違えてしまう。でもちゃんと自分の間違いにも気づける人でもあるんです。特に後半は、笹が『自分はこれが大切だ』って思えることを見つけられるようになる話でもあります」
―――本作の面白いところは、お話いただいたような身近でアクチュアルなテーマが、SFミステリーの枠組みの中で、完成度の高い娯楽作として成立しているところだと思います。
「SF的な入り口ではあるんだけど、一番大切なテーマは日常と地続きにある。「惑星難民X」というワードだけ聞くと、非現実的に響きますが、シナリオを書いている時も、撮影中も、あくまで地べたのお話であるということを常に意識していました。
最初の話につながるのですが、『Xは誰だ?』っていう疑問を持った瞬間、そこには必ず無意識の偏見が生まれる。人間であれば未知なるものを怖がるのは当然ですし、不安になるのは仕方がありません。
でも、それと同時に見えない偏見も生まれていて、それに対して『あなたならどうしますか?』と、この映画を観て考えてもらいたい。それが今回一番やりたかったことですね」
―――原作とは異なる結末も見どころですね。
「ネタバレになっちゃうので詳しくは言えないですけど、今回の映画は『Xは一体誰か?』っていう謎解きを超えるような結末を用意できたら面白いんじゃないかと思って作りました。
『Xは誰々でした』で終わっちゃうと、それだけになっちゃうから。映画を観終わった後に、『これが自分だったら?』っていう風にお客さんに考えてもらえたり、映画を見た人と話し合える物語になっていればいいなと。
単純に映画として面白いエンターテインメントであり、尚且つ、持ち帰りもあるのが良いと思って作りました」
(取材・文:山田剛志)
12月1日(金)新宿ピカデリー 他全国ロードショー
【作品情報】
タイトル:『隣人X -疑惑の彼女-』
出演:上野樹里/林 遣都
黃 姵 嘉/野村周平/川瀬陽太/嶋田久作/原日出子/バカリズム/酒向 芳
監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫)
音楽:成田 旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」(PONY CANYON/RECA Records)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:AMGエンタテインメント
制作協力:アミューズメントメディア総合学院
コピーライト:©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社
公式サイト
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