「恩返しするとしたら、地元で映画を撮るしかない」
舞台となった地元・荒尾市への想い
―――本作は映像面でも見どころが豊富です。海辺を歩く梨枝を咲が撮影する序盤のシーンでは、潮が引いて地表が露になっています。そこから回想シーンに移ると、幼い頃の梨枝と母親が同じ場所を歩いてはいるけれど、満潮で海がいっぱいに広がっています。さりげない対比ですけど、とても鮮やかでした。撮影は苦労されたのではないでしょうか?
「ありがとうございます。ご指摘のシーンは、時間が選べなかったので、出たとこ勝負で撮影して、結果的に今のような形になりました。舞台となった熊本県荒尾市(僕の地元でもあります)は干潟で有名でして、特に太陽が西に沈んでいく間際の干潟がすごく綺麗なんです。
ということもあり、初めは回想シーンを夕景の干潟で撮れればと思っていたのですが、結果的に潮が満ちたタイミングで撮ることになりました。結果的に、良い対比になって良かったなって今は思っています」
―――荒尾市は炭鉱の町として知られていますよね。
「炭鉱跡地(万田坑)が世界遺産にもなっています。僕の祖父も昔は炭鉱で働いていたりして、未だに炭鉱の町っていうイメージは根強いですよね」
―――本作の舞台となった地元・荒尾市への思いもお聞かせください。
「思い入れは凄く強いです。僕18歳で上京しているんですけど、元々、上京志向があったわけじゃなく、事情があって九州で国立大学を受けることができなくなって、東京の私立大学に通うことになったんです。
それ以来、地元のために何か出来ることがあるのではないかという思いをずっと抱き続けてきて、この仕事を始めたからには、恩返しするとしたら、地元で映画を撮るくらいかなって。こんなに時間が掛かるとは思ってなかったですけど、やっとそれが実現出来て、凄く嬉しいですね」