画面の細部にまで配慮が行き届いた演出について
―――室内のシーンでは、手前に机があってその奥で登場人物が向き合って話している、という構図がよく見られました。画面手前の机に2人の姿を反映させたショットが印象的でした。
「カメラマンの長野泰隆さんが得意としている、僕も凄く好きなアングルです。
長野さんはロングのツーショットを凄く綺麗に撮る方。かれこれ5~6年の付き合いになりますが、最近では、僕が『こういうのを撮りたい』って思ってると、彼もそのアングルを考えていて。ほぼ阿吽の呼吸でアングルが決まっていきます。
僕には、引き画が綺麗で、ストーリーがしっかりしていてお客さんが飽きなければ、極論、カットバックはなくてもいいのではないかという考えがありまして。
もちろん撮影の都合上、カットバックはどこかで絶対必要になるのですが、一つのシーンをロングのワンショットで成立させることができれば、それに越したことはない。それは僕が思う日本映画らしさに繋がっています」
―――ロングショットと言えば、映画中盤、病院の前で弟と話すシーンも素晴らしいと思いました。梨枝が大きい声で恥ずかしい言葉を言い放つタイミングで、通行人が画面手前を横切る。観ていて気持ちの良い演出でした。有働監督は、これまでCMやテレビドラマで研鑽を積まれ、本作で初めて長編劇映画のメガホンを取られたわけですが、今回、「大スクリーンで観られる作品を作る」という意識はやはり強かったのでしょうか?
「今ではすっかりNetflixとかAmazonプライムで配信されている映画を、家に居ながらにしてスマホやパソコンの画面で視聴するスタイルが定着しましたよね。
そんな中でも、今回は、大きいスクリーンと5.1サラウンドで上映した時の光景を常にイメージしていました。極端な話、スマホやパソコンで観られることは一切考えていませんでした」
―――画面の隅々まで配慮が行き届いていて、こだわりを感じました。中でも、宮崎美子さんが登場する居酒屋のシーンをはじめ、縦の構図を活かして撮っておられますね。
「元々あのシーンは、コロナで中断する前は、荒尾市の居酒屋さんを使わせていただく予定だったんです。でも予定が変わって、最終的には神奈川県にあるお店を使わせていただくことに。
本来予定していたお店は横幅があって、広い画が撮れたのですけど、状況が変わってプランを練り直す中、カメラマンと2人で『この縦の通路を使うしかないね』と。
与えられた条件の中で、それをどう活かすかっていうのは、割と得意なんです。これまで低予算の作品を沢山手がけてきたので。『ここでやれるベストの方法を考えよう』っていうスタンスで仕事をしてきたのが、功を奏したのかもしれません」