「ぜひ本編が終わっても席を立たずに観てほしい」
印象的なラストカットと次なる目標について
―――ラストシーンのカット割りにもハッとさせられました。猿渡に呼び止められて梨枝が振り返り、斜めのバストアップから正面のクローズアップに繋がるのですが、ここがジャンプカット気味になっていますね。あれは現場で確信的に撮っていたのか、編集の時に発見されたのか。いかがでしょうか?
「最後を正面からの梨枝のドヤ顔のアップにしたのは、ファーストカットの梨枝のクローズアップと同じにしたかったからです。 “梨枝で始まり梨枝で終わる”。それは最初の段階から決めていました」
―――映画の最初と最後で、同じ女優さんとは思えないような表情の変化が捉えられていますね。
「それを表現したかったんです。実はこのシーン、咲の単独ショットも撮っているんです。凄く良い顔が撮れていたのですが、迷った挙句、外しました。でも名残惜しいので、エンドロールでそのカットを使用しています。個人的にこの映画は、2人の話だと思っているので」
―――エンドロールも必見ですね。
「エンドロール後にひとオチあるので、ぜひ本編が終わっても席を立たずに観てほしいです。ボーナストラックじゃないけど、映画『スリー・ビルボード』(2017)のラストのような、“この後どうするんだろう”っていう締め方が凄く好きなんですよね」
―――では、最後の質問です。有働監督が次にどんな作品をお撮りになるのか気になります。構想などあれば教えてください。
「ありがとうございます。本作を完成させるまでは他の映画のオファーは受けないって決めてやってきたんですよ。まずは地元で最初の映画を作ろうと。大林宣彦監督の『尾道三部作』じゃないですけど、地元で『荒尾三部作』あるいは『熊本三部作』を作れたらいいなとは漠然と思っています。
ただ、そう言ったそばから申し訳ないのですが、地元でやると良くも悪くも凄く疲弊するのは事実なので、次は東京で撮りたいなって気持ちもあります(笑)」
―――温めている企画はあるのでしょうか?
「何個かありますね。今回の映画のテーマは“リスタート”なんですけど、今の社会って、一度失敗したら二度と立ち直れないような雰囲気がありますよね。
僕自身、今まで散々失敗をして、遠回りをして、意地になって続けていたらなんとかなったっていう人生で。失敗をした人間がもう一度立ち上がる。今後もそういうテーマを撮っていきたいと思っています。
それに加え、社会問題をポップに描きたいという思いも強いです。社会問題をシリアスに描くことにおいて、僕よりも優れた資質を持っている人は沢山いるので。コメディやヒューマンドラマに昇華しつつ、社会問題の本質もちゃんと描く。そういうスタンスは僕の軸でもあるので、今後もブレずにやっていきたいと思っています」
(取材・文:山田剛志)
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