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遊屋慎太郎オフィシャルインタビュー

遊屋慎太郎

──オーディションでの様子を教えてください

「オーディションでは脚本から抜粋したシーンを演じた後、寿保監督から『表現についてどう思っていますか?』と聞かれたり、踊ったりもしました。しかもそれは振付のあるダンスを求められたのではなく、子供が喜んだ時にする動きを体で表現してほしいというオーダーでした。村山槐多の絵画『尿する裸僧』を自分なりに解釈して模写するという時間もありました」

──槌宮朔をどのように演じようと思いましたか?

「オーディションの際に寿保さんから『自分にとっての表現とは?』と聞かれた影響もあると思いますが、槌宮朔は抑圧されて生きてきた人物であることを意識しました。そんな抑圧された人が換骨奪胎ダンスを踊るときに、どのように爆発させようかと。そもそもダンス名に換骨奪胎という言葉を合体させるって凄いですよね(笑)。

撮影が行われたのはコロナ禍が始まって2年くらい経った頃。俳優として作品が作れない状況が重なったことで、表現を抑え込まれた人が解放した時にどのような表現をするだろうか?と考え続けました。髪を逆立てたのも槌宮朔の潜在的な爆発を表す狙いがありました」

──佐藤寿保とは、どのような監督でしたか?

「寿保監督は情熱的な方で、僕はそこに槌宮朔を演じるヒントがあると思いました。撮影中はずっと子供のように子供のようにと演出してくれましたが、それを一番体現していたのは監督。諦めない気持ちや自分のやりたいものが明確で、自分のインスピレーションに向かってスタッフたちを納得させる力がある。

アクション!の言い方がカッコよくて声がでかくて、それだけで現場が引き締まります。カメラのフレームの中に入ってきてしまうのではないかと思うくらいこちらに肉薄してくる時もあって、監督は手を震わせながらカット!と言っていました。とにかく熱量が凄くて、気合が入ると真っ赤なバンダナを頭に巻きます。

息を止めて僕らの芝居を全集中で見つめている感じがあって、だからこそカットの声も震えて大きな声になるのかなと。渋谷で撮ると街の雑踏がどうしても入って来るので録音部の方が止めたりしますが、監督は「そんなのどうでもいい!行くぞ!」みたいな(笑)。補正を嫌うというか、その場の今起きていることが大事。その瞬間の衝動を重要視している気がしました」

──初共演の佐野史郎さんの印象を教えてください。

「佐野史郎さんは飄々と現場にいらっしゃるけれど、どこか人を寄せ付けないような威厳的オーラを放っている印象でした。一見優しそうで口調も穏やかで接しやすそうだけれど、いざ近づいてみると『おおお…』zと思わせるカリスマ感すらありました(笑)」

──遊屋さんが裸で浜辺を全力疾走するシーンは迫力満点でした。

「前貼りだとシャープなシルエットが出ないということで、前貼りではなく股間部分に子供用の靴下をかぶせました。浜辺を全力で走ったら取れてしまうのではないかと心配しましたが、意外と取れずにフィットしていました。撮影隊がかなり遠くにいたのでカットの声に気づかず、かなりの距離を走りました。幸いにも通報されるようなハプニングもなく一安心です。

撮影は12月で寒かったけれど超気持ち良かったです。倒れるシーンで股間が見えずに上手く行ったのは、ソックス効果です(笑)寿保さんは尿の放物線にもこだわっていました。海なので風が強くてなかなかいいポジションに落ちず、何度も試行錯誤しました。尿はもちろんフェイクです(笑)」

──洞窟の中で佐藤里穂さんと血まみれ全裸で抱き合うシーンも壮絶でした。

「血のりを頭上に垂らす装置を完全DIYしていたので撮影までかなりの時間を要しました。体も血まみれになるわけですから失敗はできない。大量に流れてくる血のりも温かくはしてくれたものの、外気の寒さで冷えてしまって、震えながらの本番でした。

ほとんど覚えていないくらい何も考えられず、もはや死に物狂い。佐藤里穂さんもそうだと思いますが、お互いに脳みそは使っていないと思います。真冬の樹海の洞窟で全裸になって血のりを浴びるなんてこの先経験することはないと思うので、大変貴重な経験になりました」

──劇中劇『悪魔の舌』はどのような意識で演じられましたか?

「実はそこが一番イメージしやすかったです。それは村山槐多本人が書いた小説として物語形式なので(笑)。ただ僕が脚本を読んでイメージした画と寿保さんが生み出した画はまったく違いました。その違いがまた面白くて。

トゲトゲの舌は自分のベロを実際に模った特殊造形で、舌に装着して動かすのがとても難しかったです。自分の舌にフィットするけれど異物感があってえづいちゃう。映像ではしっかりと気持ち悪かったので、素晴らしいと思いました」

──観客にメッセージをお願いします。

「物語を追いかけるのが難しい作品ではあるし、登場人物の誰かに感情移入できるかというと難しいかもしれません。しかし僕が浜を裸で走っているシーンや血のりを浴びているシーンなどは普段生きていく中でそう見られる映像ではないので、芸術の爆発を受け取ってもらえたら嬉しいです」

取材・文・構成/石井隼人

【あらすじ】

大正時代の画家・村山槐多の「尿する裸僧」という絵画に魅入られた法月薊(のりづき・あざみ)が、街頭で道行く人々に「村山槐多を知っていますか?」とインタビューしていると、「私がカイタだ」と答える謎の男に出会う。その男、槌宮朔(つちみや・さく)は、特殊な音域を聴き取る力があり、ある日、過去から村山槐多が語り掛ける声を聴き、度重なる槐多の声に神経を侵食された彼は、自らが槐多だと思いこむようになっていたのだった。

朔が加工する音は、朔と同様に特殊な能力を持つ者にしか聴きとれないものだが、それぞれ予知能力、透視能力、念写能力、念動力を有する若者4人のパフォーマンス集団がそれに感応。彼らは、その能力ゆえに家族や世間から異分子扱いされ、ある研究施設で”普通”に近づくよう実験台にされていたが、施設を脱走して、街頭でパフォーマンスを繰り広げていた。

研究所の職員である亜納芯(あのう・しん)は、彼らの一部始終を観察していた。朔がノイズを発信する改造車を作った廃車工場の男・式部鋭(しきぶ・さとし)は、自分を実験材料にした父親を殺そうとした朔の怒りを閉じ込めるために朔のデスマスクを作っていた。薊は、それは何故か村山槐多に似ていたと知り…

【作品情報】

遊屋慎太郎 佐藤里穂
工藤景 涼田麗乃 八田拳 佐月絵美
佐野史郎
監督:佐藤寿保 脚本:夢野史郎 音楽:SATOL aka BeatLive、田所大輔 撮影:御木茂則
照明:高原博紀 録音:丹雄二 美術:齋藤卓、竹内悦子 特殊造形・特殊メイク:松井祐一、
土肥良成
衣装:佐倉萌 ヘアメイク:佐々木ゆう 編集:鵜飼邦彦 VFX スーパーバイザー:立石勝
カラーグレーディング:廣瀬亮一 題字:赤松陽構造 ドキュメント撮影・スチール:諸沢利彦
助監督:伊藤一平 特別協力:窪島誠一郎 特別美術監修:村松和明
プロデューサー:坂口一直、小林良二、村岡伸一郎
制作プロダクション:コンチネンタルサーカスピクチャーズ 配給:渋谷プロダクション
製作:スタンス・カンパニー、渋谷プロダクション 東京工芸大学芸術学部協力作品
助成: 文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業
2023/日本/カラー/5.1ch/1:1.85/102 分
©2023 Stance Company / Shibuya Production
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12月23日(土)〜1月12日(金)新宿Kʼs Cinemaにて公開他全国順次公開

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