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杉咲花の“凄まじい表情”はどのようにして生まれたのか? 映画『市子』戸田彬弘監督、単独インタビュー

text by 山田剛志

映画監督、劇作家とジャンルをまたいで独自の作品を世に送り出してきた戸田彬弘監督が、自身の主宰する劇団チーズtheaterの旗揚げ公演として上演した舞台「川辺市子のために」を、杉咲花を主演に迎え映画化した。今回は戸田監督に、本作の製作背景、細部の演出、杉咲さんとのエピソードなど、幅広くお話を伺った。(取材・文:山田剛志)

「市子の闇、あるいは謎に迫っていく」
鮮烈な印象を残すトンネルのシーン

映画『市子』
©2023 映画市子製作委員会

―――本作は、戸田監督が主宰を務める劇団チーズtheaterが2015年に公演した舞台『川辺市子のために』が原作になっています。原作は戸田監督がお一人でお書きになったとのことですが、映画化にあたり、映画監督としてもご活動されている上村奈帆さんがシナリオ作りに参加されています。どのようにして脚本づくりを進めていきましたか?

「まず、上村さんとの出会いですが、彼女の監督作『書くが、まま』(18)を拝見して、とても感銘を受けたのがそもそもの始まりです。ご本人にお会いしたら心が綺麗で、愛に溢れている。そしてそれが映画にもにじみ出ている、そんな方でした。

その後、本作の映画化の話が決まり、シナリオに女性の視点が欲しいという思いがあり、上村さんにお声がけして。一度オリジナルの戯曲を読んでいただいたのですが、ボロボロ泣きながら読んでくれました。凄く熱いハートの持ち主であることを改めて実感しまして、そこから脚本会議に参加していただくことになりました」

―――具体的なシナリオ作業はどのようにして進められたのでしょうか? また、上村さんが加わったことによるポジティブな面があれば教えてください。

「シナリオのたたき台となるプロットは僕が単独で執筆して、そこから上村さんに入っていただいて、一つ一つのシーンを作り上げていきました。上村さんが脚本づくりに加わることで、物語を客観的に見られるようになりましたし、彼女発のアイデアも面白かった。

例えば、市子(杉咲花)と北(森永悠希)が雨に打たれるシーンや、市子と長谷川(若葉竜也)が出会う焼きそばのシーンはオリジナルにはない上村さんのアイデアです。どちらも今回の映画を象徴するシーンになったと思っています」

―――今回、舞台を映画化する上で、ロケ地選びからお芝居の構築に至るまで、必要な要素を加えたり、逆に減らすなど、細心の工夫をなさったのではないかと想像いたします。まずロケーションに関してですが、冒頭のトンネルはある種のタイムマシーンのような役割を果たしていると思いました。

「確かにそういう風にも見えますね。トンネルは二度出てくるんですけど、長谷川が住んでいるアパートを探すためにロケハンをしていたら、たまたま近くにあったんですよ。一目で気に入って、台本上、市子が逃げていくシーンは別の場所を想定していたのですが、トンネルに書き換えました。

このシーンを境に、市子の闇、あるいは謎に迫っていくわけで、トンネルの暗がりに消えていくという画はとても良いなと。ちなみに、宇野祥平さん演じる刑事が謎を突き止めるシーンでもトンネルを使っていて、ご指摘のシーンと対になるようにしました」

―――初めからトンネルを想定したシーンなのかと思っていましたが、ロケハン時の発見から作り上げた場面だったのですね。

「そうですね。実際、あのトンネルと長谷川のアパートは近くにあって、編集で2つのカットに分けたとはいえ、原付バイクに乗った長谷川がトンネルを抜けてアパートに着くまでをワンカットで撮っています。今回は、ロケハン時に生まれたアイデアが結構入っています」

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