「ちょっとした言葉に心が温かくなる、温度を感じる映画」
人と関わる上で決して忘れてはいけないことを感じてもらいたい
―――感情の起伏がゆったりとした本作ですが、希が加奈子の部屋で心の内を打ち明けるシーンでは、映画のボルテージがグッと上がるのを感じました。
石橋「実はシナリオ段階では、ご指摘のシーンではなくて、その後の橋のシーンを感情のピークポイントにしようと考えていました。でも、加奈子の部屋でのシーンのお二人のお芝居があまりも素晴らしくて…。『あ、やばい。この後のシーンをピークにしようと考えていたけど…』と思い、スタッフを集めて話し合いました」
唐田「たしかに『ちょっと待ってください』っていう時間がありましたね」
石橋「お芝居は間違いなく良いけれど、これは作品として正解なのかと。一回冷静になって考えようと、助監督の方と相談しました。その結果、人間関係がもたらす“気づき”によって希の心が変化していく物語だから、唐田さんが提示してくれたものが正解だということで考えが固まりました」
唐田「ありがとうございます」
石橋「おかげでとても良いシーンになりました」
―――橋のシーンでは、希は少し涙ぐんでいるように見えますが、ちゃんと踏みとどまっていますね。母親に電話をする時にはすでに、希はちょっとだけ強くなっている。
石橋「そうですね。加奈子に打ち明けたことによって勇気が出た、という印象にできました。脚本段階で考えていた演出とは変わったものの、撮影を進めていく中で『あ、そうか。これでいいんだ』って素直に思えました」
―――最後にこれから本作を観る方に、それぞれメッセージをお願いします。
唐田「希の日常に溶け込める映画になっていると思います。ちょっとした言葉に心が温かくなる、温度を感じる映画だと思うので、ぜひそれを劇場で堪能してもらえたら嬉しく思います」
石橋「作り手としてこういうのもあれなんですが…正直、この映画を必要としない人生を送っている方は全然多いと思います。その一方で、この映画を求めてくれている人たちが必ずいるということも信じています。
これはつい最近、自分の中でやっと言語化できたんですが、『平気じゃないのに平気な顔をして生きていくこと』が辛いんだなと感じます。たとえ内側で傷ついていたとしても、学校や会社、社会に一歩出る時に、平気な状態の自分でいなきゃいけない。
誰かに相談したくても『そんなことで』と思われてしまいそうで打ち明けられなかったり、一人で抱え込んでしまう事もあると思います。人は簡単に傷つくし、逆に他人のことも簡単に傷つけることもしてしまう。
人間がそういうものであることを忘れずに、ちゃんと目の前の相手のことを考えて生きていけるような人になりたいなと、私自身、思っています。誰かの心にそっと寄り添えるような、そんな映画になっていたら嬉しいです」
(取材・文:山田剛志)
【作品詳報】
唐田えりか
芋生悠 石橋和磨
安倍乙 中山雄斗 石本径代
森田ガンツ 太志 佐々木伶 小野塚渉悟 宮崎太一 矢柴俊博
監督・脚本:石橋夕帆
主題歌:「PHEW」ステエションズ 作詞・作曲:CHAN
プロデューサー:田中佐知彦ラインプロデューサー:仙田麻子 撮影:平野礼|照明:本間光平|録音:柳田耕佑|美術:藤本楓 畠智哉 スタイリスト:小宮山芽以|ヘアメイク:赤井瑞希|助監督:内田知樹 編集:小笠原風|企画協力:直井卓俊|音楽:CHAN(ステエションズ) スチール:岩澤高雄|ビジュアルデザイ::鈴木美結 配給・宣伝:イーチタイム|配給協力:FLICKK|宣伝協力:平井万里子|製作:Ippo
2022年/日本/カラー/76分/アメリカンビスタ/5.1ch
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