「芝居をしている相手を説得できなければ、お客さんに届くはずがない」映画『未帰還の友に』主演・窪塚俊介、独占インタビュー
戦争の真っ只中で酒の提供も厳しくなった時代に、出征したまま戻らぬ友への想いを綴り、教え子の切ない恋愛と思い出を回想する太宰治の隠れた名作を映画化した『未帰還の友に』で主演を務めた窪塚俊介さんに独占インタビューを敢行。作品にかける想いから、演技論、そしてご家族のことまで、一つ一つ丁寧に語っていただいた。(取材・文:福田桃奈)
「作品と向き合いたかった」
小説の中の“先生”を演じて…。
―――太宰治の小説は大好きだったので、ほとんど制覇しているつもりだったのですが、この『未帰還の友に』は未読の作品でした。窪塚さんが演じられたことで新たな太宰治像を発見できました。どういった想いで演じられましたか?
「私小説ということで、主人公には太宰治が投影されているわけですが、厳密に言うと太宰自身ではなく、あくまでフィクションの登場人物なわけです。だから、今回の役を太宰治として演じるのかどうかについては、事前に監督とプロデューサーに相談させていただきました。お二人としては『どっちみち太宰治でしょ?』という思いだったかもしれませんが、演じる側の意識としては全然違うんですよね。
視聴者目線で考えた時に、どうしても太宰治という人間のイメージがそれぞれ先入観としてありますし、演じる側もどこかで『似せなきゃ』という意識が働くものです。しかし、今回はそうではなくて、純粋に作品と向き合いたかったし、お客さんにも先入観を抱いてもらいたくなかったので、あくまでも小説の中の“先生”を演じることにこだわりました。極論、監督たちは“太宰”という認識だったとしても、僕だけの認識でいいやと(笑)」
―――今までの太宰治のイメージを良い意味で裏切っていると思ったので、それを聞いてとても腑に落ちました。原作を読んだ時の印象はいかがでしたか?
「面白かったですね。短いからすぐに読めるじゃないですか。本来生きることってとても苦しいことだし、恋愛も淡白なものではない。そんなことを再認識させられましたね。
それは戦争という背景とは関係なく、恋愛に関して言えば、本当はもっと熱いものだったりするんだけど、現代では敢えて淡白に流さないと生きていけない。
今回は僕が主演ということになっていますけど、士師野隆之介くん演じた鶴田くんと清水萌茄さん演じたマサ子ちゃんの青春物語であるとも言えると思います」
―――今回演じてみて、また小説を読んでみて、太宰治をどのように捉えましたか?
「元々大好きなんですけど、略年表だけ見ても凄くクレイジーじゃないですか。ドラッグ、異性、アルコールと人間が溺れがちなことを全部やっていて。普通じゃない魅力がありますよね。しかも作品では自分自身を赤裸々にさらけ出していて、それが凄く共感できる。
絶対みんなどこかしら引っかかるものがあるから、後世にわたって広く読まれているのではないかな。生粋のアーティストですよね」