「生きること」
演じる上で大切にしていることとは?
―――今回、役作りで意識した点があれば教えてください。
「“雰囲気”をまとうことを大事にしました。お酒が動機になっている話ですけど、決してアルコール依存症の話ではない。
小説を読んでいるとそこまで感じなかったんですけど、クランクインしてやっていくうちに、酔い具合のバランスが凄く大事だなと思って。そこは最後まで考えてやりましたね」
―――学生たちと過ごす場面が多かったですが、先生のあどけない表情などから、人間として成熟していない部分が巧妙に表現されているなと感じました。
「僕は年齢よりも幼く見えるので、威厳のある先生ではないなと。もしそうだとしたら、あんなにも生徒たちに慕われないし、『先生、呑みに行こうよ』と気軽に声をかけられることもなかったでしょう。なので、無理に“先生でいよう”とはしないように心がけました。
一方で、先生と生徒は圧倒的に違うわけです。その違いをどのように表現するのかも考えさせられました」
―――撮影は1週間ほどでしたが、現場はいかがでしたか?
「撮影期間が短くて大変ではあったのですが、スタッフ・キャストが集中して一丸となって臨めたので良い雰囲気でした。
今回、ロケ地の都合上、広い範囲を映せなかったので、狭い画ばかりになるのではないかと心配していたんですけど、完成した作品を観るとまったく気にならなかったですね」
―――窮屈な印象はまったく受けませんでした。むしろ空間が限定されることでどこか演劇を観ているような印象もあり、本作の世界観とマッチしていると感じました。完成した本作を観た感想はいかがでしたか?
「観やすかったですね。戦争は彼らにとっては日常であったことと、鶴田くんとマサ子ちゃんの純朴で真っ直ぐな恋愛に対する想いが短い尺の中でシンプルに描かれていて、とても良かったです」
―――ドラマ、映画、舞台と多数ご出演されていますが、役を演じる上で常に意識していることはありますか?
「杉村春子さんの残した言葉に『芝居をしている相手を説得できなければお客さんに届くはずがない』という一節があって、ハッとさせられました。
つまりは“生きる”っていうことだと思うんですけど、その言葉をきっかけに演じる相手への受け渡しができたら、お客さんには絶対に届くという想いで演じるようになりました」