佐藤寿保監督
オフィシャルインタビュー
──企画の発端を教えてください。
「俺は元々怪奇小説を読むのが好きで、村山槐多の小説『悪魔の舌』も好きだった。ちなみにこの小説は江戸川乱歩曰く、日本の小説として初めてカニバリズムを扱ったものらしい。
槐多の絵画や詩はもちろんの事、幼児期からの破天荒ぶりにどこか惹かれるものがあって、渋谷の松濤美術館でやっていた『没後90年ガランスの悦楽 村山槐多』に行った。そこで初めて生の『尿する裸僧』の油彩画を目にしたときに、ザワザワと体の奥底から沸き起こる何かを感じた。
それが今から14年前。漠然としながらも『槐多を題材にした映画を撮りたい』と思った始まりだね」
──どのような議論を重ねてシナリオ化していったのでしょうか?
「当然ディスカッションは重ねた。でもそれはどんなストーリーにするか?という話ではなく、どんな登場人物を出そうか?という点に重点が置かれていた。
ストーリーの中には槐多の小説や詩、絵画を散りばめてはいるけれど、小説の脚色とか評伝なんかにする気は毛頭なくて、槐多が生み出した芸術や表現というエッセンスを俺なりに嚙み砕いて吐き出して、俺にしかできない予測不能な映画を目指した。
俺も映画監督という表現者の端くれなわけで、まさに表現の大爆発を観客たちに浴びせて大いに感じてほしいと思った訳だ」
──W主演の遊屋慎太郎さんと佐藤里穂さんの印象をお聞かせください。
「2人とも純真さがあって、芝居も凝り固まっていないのが良かったね。ただ性格が良くて優しすぎるところがあって、それが表情や仕草に出てしまうんだ(笑)。
槌宮朔と法月薊はある意味で一卵性双生児的でもあるわけで、キャラクターとしては社会と対峙しているようなパンク精神が必要だった。それを表すために遊屋には髪の毛をガチガチに逆立ててもらって、衣装も一点だけにした。
佐藤には髪の毛を後ろで結っておでこを出してもらって、眉毛も斜めにスッと細く引いてもらった。ヴィジュアル面での工夫も功を奏して、お互いにドッジボールではなく心地いいキャッチボールができていたと思うね」
──パフォーマンス集団(工藤景、涼田麗乃、八田拳、佐月絵美)についてはどうですか?
「パフォーマンス集団は個としての面白さもさることながら、全体のバランスも重要だと思った。4人ともに年齢も経験もバラバラだったので、まずはダンスが得意な工藤をリーダー格として配置して、残りの3人をそれぞれのポジションに入れ込んで収めた。
この4人のバランスが上手く行ったことで、パフォーマンス表現も面白いものになったと思う」
──佐野史郎さんの謎めいた雰囲気も素晴らしかったです。
「佐野史郎さんとお会いするのは今回が初めてだったけれど、いまでも自主映画に出ていたりと、自分が面白いと思う作品を選んで仕事をしているようで気になる存在ではあった。そして佐野さんならではの存在感!撮影ではこちらから細かく演出することはしないで、思うようにやってもらった。
佐野さん独特の存在感はこの映画にマッチしていると思う。これは感覚的なもので、もはや理屈じゃないよな!」
──今作でもこれまで同様に、佐藤監督ならではのアウトサイダーへの眼差しがしっかりと刻み込まれています。
「俺は今までどんな登場人物を描いてきたのだろうか?と考えると、まさしくアウトサイダーをずっと描いてきたと言える。社会から疎外されているのではないか?と怯え、葛藤し、社会に押しつぶされないよう踏ん張って抗いながらもパラノイア的になる人間たちのその姿。
俺自身、上京したての頃は視線恐怖症的なところがあって、映画を観に行こうとして新宿の人込みから感じる視線の暴力に耐えきれなくて、そのまま映画を観ずに帰るなんてこともあったから…」
──観客に向けてメッセージをお願いします。
「『火だるま槐多よ』をどう観るのか?それは観客の皆さんの自由です。…感じてください!より多くの老若男女に感じて欲しい!それ以外のメッセージが思い浮かばない(笑)。
村山槐多を知っている人も、知らない人も楽しめる刺激物たっぷりの内容だと思うし、予備知識を入れずに観るのもこの映画を面白がる一つの方法かもしれない。
社会的模範という抑圧を受けながらも、自分なりの美を追求して狂い咲いて22歳で死んだ村山槐多。その精神を受け継いだ登場人物たちの表現と戦いを観て感じてもらえたら、非常に嬉しいです」
(取材・文・構成/石井隼人)
【佐藤寿保(Hisayasu Sato)プロフィール】
1959年8月15日生まれ、静岡県出身。東京工芸大学在学中より8mmで自主映画を制作。卒業後、向井寛主宰の「獅子プロダクション」に参加。滝田洋二郎らの助監督を務める。
1985年『狂った触覚』で監督デビュー。同年ズームアップ映画祭新人監督賞を受賞。以後、日常にひそむ狂気とエロチシズムを独特の映像美で描く異色作を連発。その作風はロッテルダム映画祭、ヴィエンナーレ映画祭など海外でも注目され、国内外にカルト的ファンが存在する。
『名前のない女たち』(10)はモスクワ映画祭など多数の映画祭に出品され、カナダのファンタジア映画祭では主演の安井紀絵が主演女優賞を受賞。
2014年よりスタートした『華魂』シリーズを経て、2016年、ハーバード大学感覚民族誌学研究所の教授らによるプロデュースで『眼球の夢』を発表し、ロッテルダム映画祭に95年に次ぐ22年ぶり2回目となる異例の招聘、その瑞々しくも刺激に満ちた映像が評判を呼んだ。
主な監督作品に、『狂った触覚』(85)、『オスティア~月蝕映画館~』(88)、『αとβのフーガ』(89)、『視線上のアリア』(92)、『誕生日』(93)、『LOVE-ZERO=NO LIMIT』(94)、『ラフレシア』(95)、『藪の中』(96)、『女虐 NAKED BLOOD』(96)、『刺青 SI-SEI』(05)、『乱歩地獄/芋虫』(05)、『名前のない女たち』(10)、『華魂』(14) 、『華魂 幻影』(16)、『眼球の夢』(16)がある。
【佐藤寿保特集第1弾&第2弾】
日程:2023年12月23日(土)〜2024年1月5日(金)
※12月31日(日)は休映
会場:新宿K’s cinema
料金:1,300円均一 (シニア1,200円)
公式サイト
【作品情報】
遊屋慎太郎 佐藤里穂
工藤景 涼田麗乃 八田拳 佐月絵美
佐野史郎
監督:佐藤寿保 脚本:夢野史郎 音楽:SATOL aka BeatLive、田所大輔 撮影:御木茂則
照明:高原博紀 録音:丹雄二 美術:齋藤卓、竹内悦子 特殊造形・特殊メイク:松井祐一、
土肥良成
衣装:佐倉萌 ヘアメイク:佐々木ゆう 編集:鵜飼邦彦 VFX スーパーバイザー:立石勝
カラーグレーディング:廣瀬亮一 題字:赤松陽構造 ドキュメント撮影・スチール:諸沢利彦
助監督:伊藤一平 特別協力:窪島誠一郎 特別美術監修:村松和明
プロデューサー:坂口一直、小林良二、村岡伸一郎
制作プロダクション:コンチネンタルサーカスピクチャーズ 配給:渋谷プロダクション
製作:スタンス・カンパニー、渋谷プロダクション 東京工芸大学芸術学部協力作品
助成: 文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業
2023/日本/カラー/5.1ch/1:1.85/102 分
©2023 Stance Company / Shibuya Production
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