野球を知り尽くした“名采配”
岡田がまず着手したのが、内野手の固定だ。遊撃手として絶対的存在で、侍ジャパンに選出され、WBCで世界一も経験した中野を、何のためらいもなく二塁手にコンバートする。
加えて一塁手に大山、三塁手に佐藤輝、遊撃手に木浪(開幕時は小幡)で固め、打線も「4番・大山」でフルシーズンを戦うことを決意する。
岡田の采配は独特だ。基本的には堅実な試合運びをする一方で、勝負どころと見ると、代打・代走を立て続けに投入し、全力で1点を取りに行く野球だ。自ずと試合に絡む選手は増えていき、層も厚くなっていく。
その真骨頂は、6月5日の交流戦・ロッテ戦。相手マウンドに立ったのは“令和の怪物”佐々木朗希だ。
先発・才木も踏ん張り、0-0の膠着状態で試合は進む。しかし、5回まで無安打だった阪神打線がワンチャンスをものにする。6回に先頭の中野が四球で出塁。二盗と暴投で1死三塁のチャンスを作ると、大山がチーム初安打となる右前打で先制に成功する。
そして結果、この試合をものにする。
岡田は「四球の価値」を高めた指揮官でもある。フロントに、四球を安打並みの査定ポイントとするように直談判し、その結果、ナインの意識も高まり、四球を選ぶシーンが飛躍的に増えた。
四球で出たランナーが試合を決めたことも一度や二度ではない。ベテラン監督ならではの、野球を知り尽くした“名采配”だ。
半面、作中では、岡田の人間臭い一面も明かされている。
7月25日に甲子園で行われた、阪神OBにして脳腫瘍のため28歳の若さで亡くなった故・横田慎太郎氏の追悼試合・巨人戦を4-2で制した後のことだ。
岡田は述懐する。「なぜ4-2というスコアに注目しないんだ?横田の背番号(24)と同じだろ?記者連中はどこを見ているんだ?」と気色ばんだのだ。
また、8月18日のDeNA戦では、熊谷の盗塁がリプレー検証の上でセーフからアウトになったことで審判団に激高。平田ヘッドが仲裁に入り、退場は免れたものの、これを機にNPBが動き、コリジョンルールの解釈変更を検討するに至った。
選手よりも目立つことを良しとしない岡田だが、ここぞの場面では悪役をも買って出るボスの姿に、ナインが燃えないはずはない。