不安を克服し大人へと成長していく千尋
千尋が感じる不安は、作中でもしっかりと描かれている。
例えば千尋たちが不思議の町へ向かうシーンでは、トンネルの中を進む千尋が、母親の服の袖を強く握りしめている。これは、新天地への千尋の恐怖心をはっきりと表していると言えるだろう。
しかし、本作のラスト、両親を油屋から連れ戻し、意気揚々と人間界に帰っていく千尋に、トンネルの中で震えていたかつての千尋の面影はない。千尋は油屋での修行を経て恐怖心を克服したのだ。
そんな千尋の大きな心の支えとなるのが、白い狩衣に身を包んだ少年ハクだ。日本版は『キングダムハーツ』(2002)の主役ソラの声を務める入野自由が、アメリカ版は『ライオン・キング2 シンバズ・プライド』のコブ役で知られるジェイソン・マースデンがそれぞれ声を務めている。
ハクの存在を通して、千尋は、大人になるということが、年齢に関わらず人を愛し、理解し、思いやりを示すことであると思い至る。
そして千尋は、ハクの命を食い荒らしていた魔女の契約印を湯婆婆の双子の妹、銭婆に返却する。ハクに無償の愛を注ぐことで、自分の心の中に潜む不安を克服したのだ。