現役放送作家が語る、令和ロマン監修の漫才シーンのスゴさとは? 映画『笑いのカイブツ』徹底考察&評価。モデルと原作も解説
大喜利のレジェンド、伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキ。彼の自伝小説を元に、岡山天音が熱演した映画『笑いのカイブツ』が公開中だ。「笑い」に取り憑かれた類稀なる半生に、魂が震えると話題沸騰中の本作について現役放送作家が忖度なしで解説する。(文・前田知礼)<あらすじ キャスト 考察 解説 評価 レビュー>
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【著者プロフィール】
前田 知礼(まえだ とものり)。1998年広島県生まれ。2021年に日本大学芸術学部放送学科を卒業。制作会社での助監督を経て書いたnote「『古畑任三郎vs霜降り明星』の脚本を全部書く」がきっかけで放送作家に。現在はダウ90000、マリマリマリーの構成スタッフとして活動。ドラマ「僕たちの校内放送」(フジテレビ)の脚本や、「推しといつまでも」(MBS)の構成を担当。趣味として、Instagramのストーリーズ機能で映画の感想をまとめている。
「『好き』を守るために引き返すことを選ぼうとした」
「笑い」に取り憑かれた男の半生とはー。
『笑いのカイブツ』は、才能に溢れた人間、すなわち「持ってる人間」が主人公の物語だ。しかし、断っておくがサクセスストーリーではない。才能が全てではないことを悟って、夢見た世界に絶望する物語である。才能があっても身を結ばない。たとえ、情熱があったとしても。
岡山天音が演じるツチヤタカユキは、ボケを生産する才能に溢れていた。全国放送の大喜利番組では「レジェンド」の段位を獲得し、深夜ラジオでは毎週何通もネタが採用された。
そして、人気芸人・ベーコンズの西寺(仲野太賀)に「一緒に漫才を作ろうよ」と誘われ、大阪から上京。構成作家見習いとして働き始めるツチヤだが、「人間関係不得意」という性格のせいで何もかも上手くいかない。
西寺のモデルとなった人物は原作小説でも映画本編でも明言されていないので、ここではWとするが、Wは自身のエッセイの中で、ツチヤと次のような会話をしている。
ツチヤ「能力よりコミュニケーションが優先されるんですか?」
W「そうだとしたら、どう思う?」
ツチヤ「クソだと思います……」
笑いが一番。笑いこそが正義。面白いが一番強い……そう信じていたカイブツは、それが最重要視されない世界に絶望して、故郷の大阪に戻る。
Wは著書の中で、そんなツチヤを「『好き』を守るために引き返すことを選ぼうとした」と表現している。「好き」を守るために「仕事にすること」を諦める。『笑いのカイブツ』は、そんな「好き」を貫き続けた人の映画だ。