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濱口竜介、エドワード・ヤンを語る。『エドワード・ヤンの恋愛時代』上映後トークイベントレポート【第35回東京国際映画祭】

text by 編集部
映画監督の濱口竜介写真映画チャンネル

開催中の第35回東京国際映画祭にて、台湾映画の巨匠・エドワード・ヤン監督作品『エドワード・ヤンの恋愛時代 レストア版』が上映された。上映後、エドワード・ヤンへのリスペクトを公言する『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督が登壇。エドワード・ヤン作品の唯一無二の魅力、本作の見どころについて語った。

「ヤンの全作品を見直してきた」濱口竜介が語るエドワード・ヤンの魅力

エドワードヤンの恋愛時代©Kailidoscope Pictures

変わりゆく都市とそこに生きる人々の人生模様を鮮烈なカメラワークで活写するスタイルで、世界の映画人に衝撃を与え続けている台湾が生んだ巨匠・エドワード・ヤン。

この度、キャリア中期の傑作と目される、1994年公開の『エドワード・ヤンの恋愛時代』(以下、恋愛時代)がデジタルリマスター版で復活。開催中の東京国際映画祭で、国内初披露目となった。

黒沢清、是枝裕和、岩井俊二をはじめ、国内で活動する数多の映画作家がエドワード・ヤンへのリスペクトを表明。『ドライブ・マイ・カー』(2021)で世界の映画祭を席巻した濱口竜介もヤンを敬愛する映画監督の一人だ。

写真映画チャンネル

今回のトークイベントに合わせ「ヤンの全作品を見直してきた」という濱口。登場人物たちが絶えずマシンガントークを繰り広げる、スクリューボールコメディさながらのスタイルを持つ本作が、映画史に残る傑作『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(以下、クーリンチェ)の次に撮られたという事実に注目する。

「本作は『クーリンチェ』とはあらゆる点で対照的な作品だと思います。まずキャラクター全員の顔がハッキリと見える。『クーリンチェ』では人物を捉えるカメラ位置が遠かったり、画面が暗かったりして、主要な登場人物の顔が全然把握できません」

エドワードヤンの恋愛時代©Kailidoscope Pictures

さらに濱口は、本作でエドワード・ヤンが試みた演出について、鋭い考察を展開する。

「とはいえ、クリアに捉えられた登場人物たちの顔は、必ずしも彼らの本質的な部分を明らかにしません。『恋愛時代』の登場人物たちは皆一様に何かに駆り立てられており、言葉の量は過剰なのだけれども、お互いに相手を怒鳴りつけているだけで、上手くコミュニケーションできていない。『クーリンチェ』に比べると確かにキャラクターの表情は見えやすいのだけれど、観ていて沢山の情報が入ってくるかというと、そうではない。なぜなら、彼らの言葉はことごとく表面的であり、もっと大事なものが深層にあるのではないかと思わせるからです」

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