七人の侍 配役の寸評
勘兵衛役の志村喬、菊千代役の三船敏郎、平八役の千秋実を始め、黒澤明作品常連の名優たちがこぞって出演し、キャリア最高レベルの芝居を披露している。とりわけ三船敏郎の鬼気迫る演技には未曾有の吸引力があり、他の侍たちに激昂する中盤のシーンでは、カメラに向かって熱弁を振るう姿がかなり長々と映されるが、息つく暇も忘れて語りに引き込まれる。
また、このシーンでは三船の即興的なアクションをカメラがフォローし切れず、フレームからはみ出てしまう瞬間も捉えられており、ドキュメンタリーのような生々しさがある。動の芝居に優れる三船敏郎を受けて立つ志村喬は、静の芝居に徹し、物語の柱となる知将を体現。寡黙な凄腕剣士・久蔵を演じた宮口精二は、名門劇団・文学座で研鑽を積んだ名優。俊敏な身体能力を存分に発揮し、迫力の殺陣を披露している。
黒澤明はサブキャストの配役にも力を入れており、野武士に家族を皆殺しにされた老婆役には、戦時中に空襲で家族を喪った女性をキャスティング。実人生を反映させたパフォーマンスには、プロのアクターでも出せない迫力がみなぎっている。
さらに、戦場で逃げまどう農民たち一人一人も真に迫った表情を見せており、作品の強度を高めることに貢献。惜しむらくは、農民側に志村喬や三船敏郎に匹敵する役者が不在であることだが、贅沢な不満に過ぎないだろう。