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手持ちカメラを駆使したダイナミックなカメラワークに注目

撮影を担当した仲沢半次郎は、石川力夫の人生にインスパイアされた『現代やくざ 人斬り与太』『人斬り与太 狂犬三兄弟』でも深作欣二とタッグを組んだ、戦前から活動するベテランカメラマン。横長のシネマスコープ画面に大勢のキャストをバランス良く配置し、ズームアップや移動撮影を駆使して、重要なアクションを際立たせるなど、細心のフレーミングが光る。

石川が河田組長を襲撃するシーンをはじめ、随所で手持ちカメラを駆使した臨場感あふれるカットが炸裂する。深作欣二作品でお馴染みの、レンズを斜めに傾けるカメラワークも相まって、混沌とした世界を力強く表現。注目すべきは、奇抜なカメラワークが浮くことなく、被写体の動きや、ふとした呼吸の乱れと完璧に同調している点である。

終盤に至るにつれ、主人公・石川の動きは薬物中毒の影響で徐々に機敏さを失い、鈍くなっていく。カメラもまた、鈍く、不気味な石川のアクションに張りつくような動きをみせ、観客に底なし沼にはまったような感覚を抱かせる。

石川が墓場で妻の骨壷を抱えながら、薬物を注射しようとするシーンでは、彼に恨みをもつゴロツキたちが日本刀を持って襲いかかる。地面に触れて折れる刃、背中を切られて吹き出す血がスローモーションで映される中、糸で枝に結び付いた赤い風船が宙を舞う。目を覆いたくなるような凄惨なバイオレンスが吹き荒れる中、胸を締めつけるような叙情性がふと顔を出す、素晴らしいカットである。

モノクロ、セピア色、カラーと3つのフィルムタイプを使い分けている点にも注目したい。セピア色のカットは過去のシーンであることを説明しているわけでもなく、カラー映像と混在し、夢と現実を行き来するような独特の世界観を表現。技術と感性が高い水準で合わさった本作の映像は、東映ヤクザ映画でもトップクラスの魅力を誇っている。

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