新聞記者時代に培った「聞く力」
――折口監督は、大学在学中の2010年にも映画サークルで『the Answer to the World Question』という長編の自主映画を制作し、京都みなみ会館(2023年9月閉館)で上映されていました。
「大学時代はまだ自分が面白い人間だと思い込んでいて、当時自分が抱えていた問題を映画に詰め込んだつもりでした。ただ、公開直後に東日本大震災が起きて、それまで自分がやっていたことがちっぽけに思えてきたんです。
卒業後は、もっといろいろな世界を見たいという思いから地元・中国新聞の記者になったんですが、取材を重ねていくうちに、本当に面白いことは自分の外の世界にある、と思うようになりました。
例えば、太平洋戦争中に広島で被爆した後、山口で大内人形を作り続けている職人にもインタビューしましたね。あとは、出征した兄が、家族や友人が寄せ書きをした日章旗をなぜ持って行かなかったのかを生涯考えている寺の住職も印象的でした」
――それは、個人の人生に裏付けられた面白さですよね。ドキュメンタリー映画になりそう。
「そうなんですよ。自分の頭だけで考えても絶対思いつかないじゃないですか、そういうの。で、記者をやめた後は、記者時代に培ったノウハウを活かして、自分史を編纂する仕事もしていましたね。なので、僕の活動の根底には、外部の世界や他者への興味が一貫してあると思います」
――「人の話を聞く」という記者時代の経験は、今回の映画制作に活きていますか?
「確実に活きていると思います。ただ、記者時代は、情報を素早く掴んで、あらかじめ想定した枠にあてはめるという作業が多くて、必然的に答えが限定されたクローズドクエスチョンが多かった。でも、それでは自分が想定した以上の面白さは出てこないので、今回の撮影ではできるだけオープンクエスチョンで自由に話してもらい、相手の感情を拾いあげていくように心がけました」