観客が育てた「メロスたち」
――確かに本作は、そのままのドキュメンタリーというよりは、役を通して4人の人生を描いているわけですよね。
「そうですね。正直、彼らはプロの役者ではないので、しっかりと役づくりをして深掘りしていくという作業はあまりないと思いますが、それでも役と自分の距離感を推しはかって、ある程度客観視している瞬間はあると思います。
あと、観客の存在は大きいですよね。実際、地区大会の時はまだ子供っぽい顔をしていたんですが、地元のホールで公演した時は、完全に役者の顔になっている。受け答えもはじめは粗雑だったのが、だんだん洗練されてきている印象があります」
――お笑い芸人も、テレビに出続けることによって華が出てくるという話を聞いたことがあります。ただ、あの年で、人前で自分とは別の人間を演じるというのは、とても貴重な経験ですよね。
「そうですね。特に彼らの場合、人生でこれまで人から褒められたり表彰されたりといった経験をほとんどしてこなかったと聞いています。それが、舞台の上だと、観客が拍手をして面白かったよって言ってくれる。リアルタイムでリアクションをもらえるという経験は、すごいことなんだと思います」
――つまり、この作品は、高校生のドキュメンタリーであり、役者のドキュメンタリーであるとともに、役者ができるまでのドキュメンタリーでもあるわけですね。ちなみに、折口監督も彼女の生活を見つめ続けてきているわけですが、撮影を通して4人との関係性は変わりましたか?
「すごく変わりました。年が20歳近く違うので、はじめはこちらもおっかなびっくりでインタビューしていたんですが、向こうから話しかけてくれたりして徐々に距離が縮まりました。で、彼らがひたむきに役と向き合っているシーンも、胸を打ちましたね。最後の有観客のシーンも、最後に観客から手拍子が出て、思わず涙が出ました。
ぼくは子どもがいないけど、もし自分に息子がいたらこんな感じなのかなとも思いましたね。撮影も、最初の方はいつまで取材を続けるかあやふやで毎回これでこいつらと会うのは最後かなっていう気持ちで臨んでいて、芝居すごいよかったよ、とか、観客目線で正直な気持ちを伝えるよう心がけていました」