山﨑賢人の表情から読み解く、安倍晴明の心理
今回演じた晴明は両親を殺されたという運命こそ背負っているものの、人に虐げられてばかりの人生ではなかった。それどころか、幼少期から天才といわれ、「狐の子」と恐れられていた。ゆえに、今回の山﨑は一挙手一投足に余裕があり、優雅だ。
たしかに信も杉元も、それぞれの戦い方において天才といって差し障りのない人物ではあった。山﨑はどうやら“天才”の出力の仕方が変幻自在らしい。これまでのアクションに高貴さを纏うと、かくも美しくなるのかと甚だ恐ろしさすら感じた。
作中では、何が本当で何が嘘かわからない「認知の歪み」として、「呪(しゅ)」という言葉が用いられる。この“呪”と“呪”の戦いにおいて、呪術を扱う山﨑は無敵に感じる。だから安倍晴明の戦いには絶大なる安心感がある。
山﨑は、20代の頃から傍目にも重すぎる責を負い、それを淡々とこなしてきた。30歳を間近に控え、彼は新たな美しさをわたしたちに提示してくれた。これぞ最強と言われた安倍晴明を演じるにふさわしい風格といえるだろう。
晴明には余裕と安心感があると先述したが、同時に、心に住まう何か、おそらくは両親の記憶によってこそ、自身を見失ってしまうかもしれないという危うさも孕んでいる。強く、なのにどこか儚く、それゆえに高貴で美しい。外からやって来る何にも怯えてなどいないのに、自分の心にだけは負けることがあるかもしれない。その不安定さが魅力となって、観る者の心を鷲掴みにしてくる。ぜひ劇場で目撃してほしい。
(文・あまのさき)
【作品概要】
出演者:山﨑賢人、染谷将太、奈緒、安藤政信、村上虹郎、板垣李光人、國村隼/北村一輝、小林薫
原作:夢枕獏「陰陽師」シリーズ(文藝春秋)
脚本・監督:佐藤嗣麻子(『K-20 怪人二十面相・伝』『アンフェア』シリーズ)
音楽:佐藤直紀
主題歌:BUMP OF CHICKEN「邂逅」(TOY’S FACTORY)
呪術監修:加門七海
配給:ワーナー・ブラザース映画
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