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「男が弱く見えても構わない」映画『辰巳』小路紘史監督、俳優・後藤剛範インタビュー。 邦画界のホープ、8年ぶりの新作を語る

text by 山田剛志

長編映画デビュー作『ケンとカズ』(2016)で多くの映画ファンの度肝を抜いた小路紘史監督の8年ぶりの新作となる映画『辰巳』が4/20(土)より公開される。今回は、主人公・辰巳と反目し合いながらも土壇場で手を差し伸べるアウトロー・“後藤”を演じた後藤剛範さんと小路監督のロング対談をお届けする。(取材・文:山田剛志)

「同じ画面に映っている他の出演者よりもオーラが違う」
役者・後藤剛範を発見したきっかけ

写真: 武馬玲子
写真 武馬玲子

―――後藤さんが所属されている劇団・オーストラ・マコンドーには『ケンとカズ』(2016)で主演をつとめたカトウシンスケさんもいらっしゃいますね。今回、後藤さんはどのような経緯で『辰巳』に参加されることになったのでしょうか?

後藤剛範(以下、後藤)「『ケンとカズ』をきっかけに、劇団で演出をしていて、本作にも竜二役で出演している倉本朋幸と小路監督が繋がって。ある時倉本から『ケンとカズ』の監督が次回作のオーディションをしていると教えてもらったんです。『ごっちゃんに合いそうだし、やってみたら?』って」

―――辰巳の弟役で出演している藤原季節さんが本作に寄せたコメントには「何度も『辰巳』のオーディションに通いました」という言葉がありました。何回もオーディションが行われたのでしょうか?

後藤「半年ぐらいやっていた気がしますね」

小路紘史(以下、小路)「2019年の2月から8月までの半年間、キャラクターごとに行いました。藤原季節もそうですが、各キャストに2回ずつは来てもらって。1人の役者に色んなキャラクターを演じてもらいその上でキャスティングができたので、長い時間をかけてオーディションができたのは、すごく良かったと思います」

―――後藤さんは『ケンとカズ』をご覧になった時、どのような印象を持たれましたか?

後藤「封切の際にカトウが出ているからというので倉本さんとユーロスペースへ観に行ったんです。緊張感が迸っていて、ずっと目を見開きながら見ていた感じで。ヒリヒリする映画だと思いましたね」

小路「来ていただいて。覚えてますよ」

―――当時はカトウさんと『ケンとカズ』についてお話をされたりもしたのでしょうか?たとえば、小路監督がどういう演出をなさったのかとか。

後藤「シンちゃんとはそういう話はしてないですね。ただ、当時、彼と倉本さんが小路組について話しているのを傍で聞く機会はいっぱいあって。まさか当時は自分が将来小路監督の作品に関わるなんて微塵も思ってなかったです」

―――小路監督は後藤剛範という役者を初めて認識されたきっかけは何でしたか?

小路「1番最初は小津安二郎監督の『東京物語』にオマージュを捧げたマコンドーの舞台(『家族』)だったと思います。出てましたよね?」

後藤「はい。女優の枝元萌さん(演じるキャラクター)の旦那役で」

小路「あと強烈に印象に残っているのが、それと同じくらいの時期に見た、タレントの武井壮さんを100人くらいで追っかけるっていうバラエティー番組のドッキリ企画があって…」

後藤「あ〜出ましたね。覚えてます。10年くらい前でしょうか」

―――へえ~!

後藤「自分、劇団に所属しながら長らくセキュリティのバイトをしてたんですけど、セキュリティ会社から芸能のお仕事をいただくことも結構あったんです。『こういうイカつい人ください』というので現場に呼んでもらって」

監督「当時、テレビを観ていて『あ、後藤さんだ!』って発見する機会が多くて。その度に、同じ画面に映っている他の出演者よりもオーラが違うなと。だから、その番組でもすぐに後藤さんだってわかりました」

―――先ほど小路監督にオーディションを振り返っていただきましたが、参加者の立場からみていかがでしたか?

後藤「オーディションの時点でしっかりとした台本があったので、生半可な気持ちで参加するのは失礼だなという気持ちでした。先ほど小路さんがお話になったように、配役を色々変えて演じさせてもらったんですけど、辰巳の役を演じた時、すごく良くないといいますか、不謹慎なアクションをしてしまって…」

―――どんなアクションだったのでしょうか?

後藤「死体処理をしながら話をするというシチュエーションだったのですが、パイプ椅子を死体に見立ててお芝居をしていて。なんとかして爪痕を残そうと思ったんでしょうね、そのパイプ椅子を雑に投げたりとかして」

―――不謹慎ですね(笑)。

小路「こっちはそれを死体だと思って見るわけですから『この人は死体をこんなに雑に扱うんだ』って。それがすごく面白かったですね」

後藤「結果すごく不謹慎なアクションにはなりましたが、パイプ椅子を運ぶという些細な仕草からもエネルギーを感じとってもらえたらいいなと思いながら演じていましたね」

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