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「映画の構造に乗ってもらいたかった」
こだわりのロケーションとシナリオ構成について

写真: 武馬玲子
写真 武馬玲子

―――長谷部が一本道を走るカットが反復されますね。背景の家がパステルカラーとなっていて、まるで劇画のような雰囲気があります。ここはロケハンで発見されたのでしょうか?

「以前からずっと気になっていた場所だったんです。実はここ、東京から関西方面に行く時、東海道新幹線の進行方向を向いて右側の席に座っていたら平塚あたりで見えるんですよ。

まるで美術で作ったかのような形状と色彩なんですけど、そこでは普通に人が暮らしている。外から見たらファンタジックだけど同時に生活に根ざしているっていうのが良いなと思っていて。日向岡っていう地名なんですけど」

―――本作のためのロケハンで見つけたのではなく、以前から気になっていた場所だったのですね。なぜ今回の作品で使おうと思われたのでしょうか?

「『不死身ラヴァーズ』という作品自体『傍目からはファンタジーに見えるけど、中の人は切実に生きている』というところがあって、めちゃくちゃしっくりくるなと。なので、日向岡を舞台にしたいっていうのは、最初の段階から製作サイドには伝えていたんです。

とはいえ普通の住宅地なので、あの道以外は撮影としては難しくて。だったら2人が住んでいる街じゃなくて、“りの”の心象風景を描くための場所にしょうと思って、あのような形で使いました」

―――とても素晴らしいショットだと思いました。松居監督には「人生ロケハン」みたいな意識があるのでしょうか?

「めちゃくちゃあります。いつか撮ってみたいロケ地の候補が頭の中に何個かあって。脚本を作る時に、『あそこいいな』と引っ張り出してくることはよくありますね」

―――今回の映画では、シチュエーションを変えて“じゅん”と“りの”が出会いと別れを繰り返します。面白かったのは、1本の映画として統一されているのはもちろん、複数の短編映画が数珠繋ぎになっているようにも見える点です。陸上部のエピソード、クリーニングのエピソードなど、エピソードごとに演出のテイストが異なります。演出する上で、今までの作品とは意識が違ったのではないでしょうか?

「そうですね。おっしゃったように”りの”は形を変えて何度も“じゅん”と出会いますが、原作では各エピソードがかなり長く描かれているんです。ただ自分の中では大学パートに早く行きたいという気持ちがあって。元々は、冒頭の中学時代のエピソードを丁寧に描いて、それと同じくらいの分量で残りのエピソードも描くつもりだったんですけど…」

―――結構メリハリがありますよね。エピソードによってはサッと終わる。

「そうそう。元の構想だと丁寧に描きすぎていて、プロデューサー、共同脚本の大野さんと話し合って、2つめのエピソードからはぶつ切りに見せようと。“りの”が恋に落ちて、両想いになって、振り向いてくれた途端に消える。

すべてのエピソードでその過程をじっくり描けば、“りの”の気持ちには感情移入できるかもしれないけど、映画の構造に乗ってもらえるかは別の話だと思ったんです。むしろ、テンポを速めることでお客さんは必死に映画についていこうとする。映画の構造に食らいつくような方向性にしました」

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