佐藤寛太の「素の魅力」を活かしたいと思った
2人の俳優との共同作業について
―――甲野じゅんを演じた佐藤寛太さんは、シーンによってキャラクターを七変化させる、演じるのが非常に難しい役だと思います。佐藤さんとはどのようなやり取りをなさって、キャラクターを作り上げていきましたか?
「最初、佐藤くんは『どうやって演じ分けたらいいだろう』っていうことをずっと気にしていて。それに対して僕は、どのシーンも基本“じゅん”は“りの”のフィルターを通して映し出される存在だから、ということを話したと思います。
佐藤くん本人は、20代後半の俳優とは思えないくらい落ち着きがなくて、ずっとうるさいんです(笑)。僕の周囲は寡黙で落ち着いている人が多くて。最初会った時『こんな喋る奴いるんだ』って驚きましたからね」
―――バーベキューのシーンに近いような。
「そうそうそう。そこがいいなと思って。なんかああいう人って好きになりづらいし、ちょっと圧倒されちゃう感じがあって。そういう本人の素の魅力は大学パートで出たらいいなと。本人的には、自分の演技を俯瞰で見てしっかり演じ分けようとしてたんですけど、今回の彼の魅力はそこじゃないと思っています」
―――青木柚さん演じる田中は、観客が物語を理解するのを助ける、狂言回しのような役割を担っています。青木さんと組まれるのは2018年の『アイスと雨音』以来になりますね。久しぶりに青木さんをお撮りになっていかがでしたか?
「恥ずかしかったですね。当時高1とかだったと思うんですけど、以降、引くほど沢山の作品に出ていて。脚本を読んでもらって、リハーサルで会ったんですけど、なんか照れ臭くて。あんまり本の話とか芝居の話はしなかったですね。『アイスと雨音』の話とか『森田想は元気か』とか、雑談ばかりして。話を逸らしてたんですね、きっと」
―――信頼感が伺えます。心配だったら役について言葉を費やして説明しようとするでしょうから。
「そうですね。心配はまったくなかったです」
―――現場で青木さんのお芝居をご覧になっていかがでしたか?
「原作だと“じゅん”が主人公なので、田中は同性の友達なんです。それが男女を入れ替えることによって、異性の友達になるわけで、そこを上手く描けるか自分の中で結構不安だったんですよね。
とはいえ、田中を女性の設定にしちゃうと、恋バナしちゃうだろうから違うなと。田中は“りの”に干渉しすぎず、ほどほどの距離感で接して、観る人に『この2人は恋愛関係にならない』と思わせなければいけない。
青木くんはそこが全部出来ていたんですよね。それは彼の人間性が寄与する部分が大きいかもしれない。見上さんと共演するのも4~5回目で本人同士が実際に腐れ縁なのもよかったです。青木柚がやってくれたから、田中というキャラクターが成立したと思っていますね」
―――これはあくまでも個人的な感想ですが、本作で描かれる恋愛模様に映画のメタファーみたいなところも感じました。あんなに夢中になったのに、上映時間終えたら、パッと消えて、別の世界に放り出されるみたいな。
「それは考えたこともなかったです。なるほど。いや、面白いですね。確かに恋愛と映画って似ているところがあるかもしれないですね。公開されたら、ぜひフィルマークスに書いてください(笑)」
―――最後にこれから観る方にメッセージをお願いします・
「先入観なしに自分の感覚で観てほしいですね。あと、終映後、観た人と話したりしてほしいです。見方に正解があるわけではないので。分かろうとすることに1番意味がある。理解しようとすることが大事であって。そういう白か黒じゃないグレーなところを楽しんでもらえたら嬉しく思います」
(取材・文:山田剛志)
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