「一生忘れられない撮影になった」影響を受けた映画作品とは
―――本作はビジュアルにインパクトがあり惹きつけられます。ビジュアル面はどういったところからインスパイアされましたか?
「アキ・カウリスマキ監督作『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』ですかね。犬までリーゼントみたいな変なリーゼント村…あの中で1番好きなのは泳いで渡ってくるファンの人が1番面白いんだけど(笑)。
あと日本だとこの手の髪型って意外と昔からあるけど、そもそもは初期のアメリカンロックファッションであって、正直言うと日本人には一番合わない髪型ですよね。これはある種の帽子で、そこに番号が付いてたらより面白かろうと思いこの形になりました」
―――spiさんは今回15役を演じ分けてらっしゃいますが、撮影前にディスカッションはされましたか?
「何回かやりまして、やっぱりキャラクターのイメージを具体的にしようということで、ピアニストのダイヤフロン役はアン・ハサウェイだとか、オーガンズというちょっと訳知りのおじさんの役はモーガン・フリーマンという風に、分かりやすく声に特徴のある人をモデルにして、やりながら色々見えてきたこともあるし、英語の指導の先生には訛りをもっと意識した方がいいんじゃないかということで、ニューヨークとロンドンでは全く違うし、ラテン系なのか黒人なのかと、言葉そのものにもちゃんと取り組んでいこうと指導をお願いしましたね」
―――撮影はどのようにして行いましたか?
「千葉にあるコンクリート打ちっぱなしの廃墟のようなスタジオを貸し切って、全部で1週間くらいかけてやりました。何しろ1人しか出てこないけど、喋る時は誰かと喋っているわけで、対話相手の背中が画に映るんですね。
完全に映る場合は合成するんですけど、ぼやけて映る場合は似た人ならいいわけです。なので同じような髪型と服を着た人間を3人用意して、1人はspiくんと身長がそっくりの弟さんに協力してもらいました。
あとの2人と本人を入れて4人でコツコツと、簡単に言えば15回合成する。でもそれだけじゃ済まなくて、行ったり来たりと非常に手間が掛かったし、シンプルが故にしっかりと計算する必要がある現場でしたね」
―――セリフの掛け合いはどのようにして撮影されたのですか?
「最初に録音したものをスピーカーで流しながらやる。簡単な掛け合いだったら相手が言ったつもりでやってもらうという感じですね。これだけCGが万能な世の中で、本当に原理原則に基づいて1個ずつ撮っていきました。
spiくんは全部のキャラクターがしっかりと頭の中に入っていたので、『(普通の声で)僕はそう思わないですよ』って言ったと思ったら、『(ドスの利いた声で)お前のことなんか信用できねぇよ』と役を次々と切り替えて演じていて、見ていて面白かったですね」
―――撮影は大変だったと思いますが、一番苦労されたのはどんな点でしたか?
「1番大変だったのは影ですね。光源がいっぱいあると、色んな影が出るわけですよ。あちこちに影が出ると合成する時に大変な手間になるので、必ず強い光源を真ん中に1個だけ置いて、人物の影が一方向になるようにしました。そんなこと普通に考えりゃすぐ分かるんだけど、なぜか当日思いついて現地で指示を出しましたね(笑)。一生忘れない撮影になりました」