「ずっとお仕事したいと思っていた」
ヤン・イクチュンとのコラボレーション
――本作では、浅井の相手役のジヨンとして、韓国人俳優のヤン・イクチュンさんが出演されています。イクチュンさんをはじめて知ったのはいつでしょうか?
「初めに見たのは、監督・主演を務められた『息もできない』(2010)ですね。その後一度ご本人と会って、ずっとお仕事したいなと思っていました。なので、今回願いが叶って本当にうれしいです」
――イクチュンさんが演じるジヨンは、原作では元々石倉という日本人の設定でしたが、今回は韓国人留学生のジヨンという設定になっていて、男同士のコミュニケーションの齟齬というテーマに社会的な含みが持たされています。石倉役を韓国人の設定にしたのは、イクチュンさんありきなのでしょうか。
「今回は企画が生まれた段階から『ヤン・イクチュンで映画を撮る』というのがあって。初稿の時点から韓国人留学生という設定になっていました」
――ちなみに、韓国人留学生というモチーフは、『リンダ リンダ リンダ』(2005)にも登場します。こちらは青春群像劇で、本作とは全く違う作風なのですが同じモチーフが違った形で反復されるのは面白いですね。
「役者が変わるとこれだけドロドロになるという(笑)。ひとえにヤン・イクチュンの破壊的な芝居のおかげですね」
――踏み込んだ解釈になりますが、今回イクチュンさんが演じたジヨンは、存在の虚実があやふやなところがあって、『カラオケ行こ!』(2024)に登場する綾野剛さん演じるヤクザ・成田狂児に通じる部分があるのかなと思いました。このあたりのキャラクター設定は意識されましたか?
「そこに関してはあまり深く考えませんでしたが、ジヨンの見え方には浅井の強迫観念が大きく関わっていて。『カラオケ行こ!』の場合は、どちらかというと原作の方が幻っぽくて、綾野剛さんが演じることで人間としての温度感がもたらされたと思っています」
――今回の映画では、奈緒さん演じる西田さゆりも、すべてのシーンで言葉を奪われていて、それこそ幻のような存在として描かれています。
「そうですね。奈緒さんは、現場でお芝居をつけてセリフを話してもらっているんですが、男側からの印象に基づいたキャラクターなので、演じるのが難しかったと思います。その上、当時彼女はとても忙しい時期だったので、事前に打ち合わせができず、台本とちょっとしたプロフィールしか渡せませんでした。少ない情報の中からよく演じてくれたと思っています」