「こういう“0から1を作る”のが当たり前の現場って中々ない」独創的なセリフの区切り、間、テンポについて
―――相手への問いかけがいつの間にかモノローグに変化して、ロジックがどんどん自己展開していき、いつの間にか対話の相手が置いてきぼりになる。本作のセリフのあり方は、過去の二ノ宮監督作品と共通するものだと思いました。セリフをお書きになる際にどのようなことを意識していますか?
二ノ宮「絶対にあり得ないことは書かないということです。なぜこの映画にそのセリフが必要なのか。脚本を書く時はそういうことを考えますね」
―――二ノ宮監督の作品では、セリフの在り方が、映画の世界観、作品を通して伝えたいことに直結しているという印象を受けます。
坂東「セリフに関して、二ノ宮監督には迷いがないんです。現場によっては『ここはアドリブで』ということもあります。でも今回二ノ宮監督の撮影の仕方を見ていて思ったのは、アドリブとかそういうことではなく、本当に撮りたい映画が丸々一本映像として監督の頭の中にしっかりあった上で現場に来ているということ。
現場では撮りたい画に近づける作業をしつつも、さらにその上を行くというか、先を行くということもしっかり考えている。こういう“0から1を作る”のが当たり前の現場って中々ないと思いますし、参加できて凄く幸せでした」
二ノ宮「ありがとうございます。嬉しい」
―――セリフに関してですが、言葉をどこで区切るのかがこの映画ではとても重要になっていると思っていて。
坂東「そうなんですよ。そうそう」
―――その辺の細かい作業は役者さんのアドリブ任せだとなかなか出来ない。
坂東「出来ないです」
―――先ほど全シーンリハーサルを行ったと聞いて、腑に落ちました。
坂東「セリフの区切りとか間とかテンポを凄く細かく演出してましたよね。特にセリフが多かった尚弥と里恩に対して」
二ノ宮「それがやっぱ崩れちゃうと…」
坂東「世界観に統一感がなくなる」
二ノ宮「そうですね」
坂東「それに2人は苦戦してましたよ(笑)。結構リハで」
―――終盤の清水尚弥さんの『お前のように、頭のおかしくない~』というセリフなども区切りが物凄く重要ですよね。
坂東「セリフの間に関しては僕もあるんですよ。特に岩松さんとのカフェでの対話シーン。相手のセリフに応じるまでのセリフの間を気持ち悪いぐらい長く取るっていう演出が印象的で。
大体2拍とか3拍あけてっていうのはよくありますけど、今回『7・5拍あけてくださいって』言われて。喫茶店のマスターと客の青年が正対して会話していて、普通そんな会話に間があきますか?っていう。でもそれが物凄く大事なんだっていうことを繰り返し監督はおっしゃっていて」
―――その時に二ノ宮監督はその理由をおっしゃいますか?
坂東「おっしゃらない(笑)。とりあえず『空けてください』(笑)。二ノ宮監督は完成像をはっきりと頭の中でリアルに思い描いているから確信を持ってそういう演出ができるんだろうなと。だからこっちも信じられるし、素直に分かりましたって言える。自分がやりやすいから、もうちょっと詰めてやるとかいう気持ちにはまったくならない。そこはもう信頼ですね」
二ノ宮「でもここまでこういう演出を徹底したのはこの映画が初めてです。間とかリズムとかここまで(厳密に)言ったことは今までにない」
坂東「単純にセリフの量も多いですよね。『逃げきれた夢』に比べても多いですか?」
二ノ宮「そうだね」
坂東「セリフのテンポがちょっとズレるだけで、全然違う見え方になる映画だなと。それこそ好き勝手に役者がやりたいように演じていたら全然違う映画になってしまう。でもその中でもみんな楽しんで演じていました」