俳優・三浦誠己、独占インタビュー。映画『ケイコ 目を澄ませて』の撮影秘話を語る。三宅唱監督とのタッグ作は「傑作と確信」
12月16日公開の映画『ケイコ 目を澄ませて』(三宅唱監督)は、耳が聞こえない元プロボクサー・小笠原恵子さんの自伝「負けないで!」を原案とした、岸井ゆきの主演のヒューマンドラマ。今回は、同作でケイコをサポートする重要な役を演じている、俳優の三浦誠己さんにインタビュー。20年を超える俳優人生において、「とても大切な作品になった」という本作に懸ける思いや、現場でのエピソードを伺った。(取材・文:山田剛志/映画チャンネル編集長)
【三浦誠己 プロフィール】
1975年生まれ、和歌山県出身。1994年にNSC(吉本総合芸能学院)に入学し、お笑い芸人としてキャリアをスタートさせる。『岸和田少年愚連隊』(1996)で映画に初出演し、2003年に俳優に転向。2004年公開の『きょうのできごと』で、メインキャストの1人に抜擢され、本格的に役者としてデビューを果たす。以降、日本映画に欠かせない役者として数多くの作品に出演。12月16日公開の『ケイコ 目を澄ませて』では、岸井ゆきの演じる主人公・ケイコが所属するボクシングジムのトレーナー役で出演。三宅唱監督作品への出演は、2012年公開の『Playback』以来、10年ぶりとなる。
スタッフ一丸となってアイデアをひねり出す…。
映画愛に満ちた三宅組の雰囲気
――『ケイコ 目を澄ませて』は、元プロボクサーである小笠原恵子さんの自伝が原案となっているわけですが、三浦さんが演じた林トレーナーには、モデルとなる方がいたのでしょうか?
「原案となった「負けないで!」(創出版)には、トレーナーに関して具体的な記述があるわけではなく、自分なりのアプローチで一から役を作っていきました。実は、今から15年ほど前、30代前半の頃に1年間ほどボクシングジムに通っていたんですよ」
――なんと! ミットさばきやステップワークなど、見事に様になっていました。
「ありがとうございます。今回、衣装を自前で用意したのですが、ウエアもシューズも基本的には『ミズノ』の製品で揃えています。僕がジムに通っていた当時は、『ミズノ』のものがよく使われていたので、その辺りは実体験を参考にしています。ただ、今回、トレーナーを演じる上で真っ先に意識したのは、ボクシングジムの時間がどのように流れているのかでした」
――興味深いお話です。詳しくお聞かせください。
「ジムで練習に励む選手たちは、準備運動から縄跳びまで、基本的に1ラウンド3分間のリズムで行動します。入った瞬間から『あと残り何分で、次のラウンドまで何分』というのを意識する。これがボクシングジムに流れている時間です。そして、3分間も経たないうちに動きを止めてしまう選手がいたら、『怪我をしているのではないか』と、真っ先に異変に気付くのがトレーナーです」
――ジムに流れている時間、3分間で刻まれるリズムを肉体に染みこませることで、役を作り込んでいったのですね。
「トレーナーは、基本的にほぼ毎日、ジムにいるわけですよ。『週6日ジムにいる人間を演じる』ってことが、今回の僕のテーマでした。三浦友和さん扮するジムの会長が、練習生を集めて、『ジムを閉めることになった』と告げるシーンでは、三宅監督に『ゴングを止める動きが必要なのではないか』と伝えました。ジムのゴングは、1分おき、あるいは3分おきに鳴るようになっていますから。三宅監督も理解を示してくれて、そういう動きを加えることになりました。他に、画面に映っていないところでも、色々細かいアイデアを提案して、少しは作品に貢献できたかなと思っています」
――今仰ったような細かいアイデアの積み重ねが作品にリアルな空気感をもたらしているのかもしれませんね。
「ケイコと仙道敦子さん演じる会長の奥さんがジムで会話をするシーンでは、2人きりにするために、その場にいる若いボクサーに、『表の掃除を手伝ってくれ』と声をかける、という動きを入れています。三宅監督の脚本は余白が多いのですよ。例えば、シナリオには、ジムの鏡の前でシャドウボクシングしているとだけ書かれている。美術スタッフがそれを読んで、『外に雪を降らせるのはどうか』とアイデアを出す、照明スタッフが『このシーンは夕方の時間帯のほうが良いのではないか』と提案するなど、みんなで話し合いながら映画を作っていたので、撮影していて楽しかったですね」
――ケイコの移籍先を探すため、しらみつぶしに電話をかけていくシーンも印象的です。
「むちゃくちゃ不器用でしょう(笑)。電話をかけるシーンって、大体は通話先の相手のリアクションを、観る人が想像できるように芝居をするものです。でも今回は、あえてそれをわからせないようにすることで、たどたどしさが伝わればと思いました。僕が演じた林トレーナーはもとより、この映画って出ている人たちがみんな不器用なんですよね。個人的には、そのあたりも好きなポイントの一つです」