「カッコよく映ろうなんて思わなかった」
クランクアップ時には涙も
――(三浦)友和さんが、足立智充さん演じるインタビュアーから取材を受けるシーンでは、途中から三浦さんがフレームに入ってきますね。まるでドキュメンタリーのような、くつろいだ雰囲気が素敵でした。
「インタビューを受けている友和さんの後ろに座って、『ケイコにボクシングの才能はないかなぁ』という言葉を聞いて、僕もちょっと笑っちゃう。僕のリアクションは台本には書かれていなかったのですが、笑った時に、照明技師の藤井勇さんが『ライティングを変える』って、僕の方にも光を当ててくれたんです」
――スタッフ一丸となって映画を創造していく、三宅組の雰囲気が伝わるエピソードです。本作はデジタルではなく、16㎜フィルムで撮影されています。フィルムでの撮影は現場にどのような影響を与えましたか?
「フィルム撮影と一口に言っても、製作体制によって状況は変わりますが、今回は、どのカットを使うのか、どのようなカットが必要なのか、現場のスタッフが映画の完成形を共有しながら撮影を進めることができました。デジタルだと、複数のポジションから同時に撮影して、編集でどうにかしましょうと、イメージが共有されないまま撮影が進んで行く場合が多々あるので。今回はフィルムで撮影することで、必要なカットは何なのか、スタッフ全員がイメージを共有できていました。だから求めているものに到達するのも速い。滅多にないことですけど、クランクアップの時には、涙を流してしまいました」
――どのようなお気持ちで涙を流されたのでしょうか?
「一つは主役のケイコを演じた岸井ゆきのさんに対するリスペクトの気持ち。あとは三宅監督の現場がすごく楽しかったのと、そこからお別れするのがね、寂しかったので。そんな感情になったこと10年近くありませんでしたから、自分でも驚きました」
――2012年公開の『Playback』以来、三宅唱監督作品に参加されるのは10年ぶりとなりました。久々の三宅組はいかがでしたか?
「三宅監督の作品では、演技をするよりも、どういう心境で、いかなる佇まいでカメラの前に立つことができるのかが、すごく重要なんです。『上手くやろう』とか、『カッコよく映ろう』なんて思わず、構えないで、ありのままの自分でいる様に心がけたし、実際にそういう風に居ることができた。すごく心地よかったです」
――完成した作品を観て、どんな感想を持ちましたか?
「現場で『面白い映画になるだろうな』と思っていましたけど、想像以上の傑作でした。作品を構成する一つひとつの要素が丁寧に積み上げられていますよね。僕は、出演作の批評や、賞レースなどはあまり考えないタイプなんですけど、この作品は一般の観客の皆さんにも映画関係者にも太鼓判を押してもらえる傑作だと確信しています。自分のキャリアの中でも、大切な作品になりました。ぜひ多くの人に観てほしいですね」
(取材・文:山田剛志/映画チャンネル編集長)
【作品情報】
『ケイコ 目を澄ませて』
監督:三宅唱
原案:小笠原恵子
脚本:三宅唱、酒井雅秋
出演:岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優
安光隆太郎、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子、三浦友和
配給:ハピネットファントム・スタジオ
12月16日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開
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