古川琴音と共に作り上げた“雪乃”というキャラクター
―――雪乃の日記を読むシーン以降、物語が一変しますね。先日古川さんにインタビューさせていただいた際、監督が雪乃のバックボーンを語ってくれたことが、役づくりをする上でヒントになったとおっしゃっていました。どんな会話があったのでしょうか。
「そうですね。雪乃は初めからすべて知っているので、湊人と接していく中でその感情をどれくらい出していくべきかということを、古川さんはかなり考えたと思います。湊人に悟らせたくないという感情と、どうしても湊人に会いたいという感情がにじみ出てしまう。
セーブしているものをどう出していくかなど、その演じ分けができるように雪乃のバックボーンをお話ししました。それがあったからこそ、僕の中にある雪乃と、古川さんの中にある雪乃をすり合わせることができたと思っています」
―――湊人のピアノバトルのシーンについてですが、1曲目を弾き終わった後、京本さんはホッとした表情をしますが、それからは苦しそうな表情でピアノを弾いていました。このシーンを撮影する際に、京本さんとはどのような会話を交わされましたか?
「イギリスから帰ってきてピアノを辞めるつもりでいる湊人が、同級生に強引に連れていかれて、無理やり弾かなければならないシチュエーションなので、弾かされている感、早く逃げ出したい。ただ煽られてそれに乗っちゃったっていう思いを、ピアノを弾き始める前に乗せてほしいという話をしました。でもあのシーンはそれよりもピアノの演奏自体が大変だったんじゃないかな(笑)」
―――湊人の父親が音楽仲間と演奏を楽しむシーンを観て、ジブリ映画『耳をすませば』(1995)の「カントリーロード」の演奏シーンを想起しました。また、イギリスの学校で罵倒されるシーンには、デイミアン・チャゼル監督の映画『セッション』(2014)を彷彿とさせられました。今回、意識された映画はありましたか?
「まさにイギリスの叱られているレッスンのシーンは『セッション』をイメージしていました。真っ暗な部屋で、怖いピアノの先生に罵倒されるシーンですね。ただ、湊人の父親がみんなで演奏するシーンは、『耳をすませば』ではなくて、ヴィム・ヴェンダース監督がキューバの音楽を撮った映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)を参考にしました」