「監督と役所広司は素晴らしい」映画『ファミリア』脚本家・いながききよたか独占インタビュー 。”不覚にも感動した”理由は?
1月6日公開の映画『ファミリア』は、役所広司演じる陶器職人とその一人息子(吉沢亮)の親子関係を縦軸に、在日外国人が直面する苦難を真正面から描き出す。スケールの大きい、未だかつてない「家族映画」となっている。この度、本作の原案およびシナリオを手がけた、脚本家のいながききよたか氏に独占インタビュー。実現までおよそ 8年を要した本作にかける思いを伺った。(取材・文:山田剛志/映画チャンネル編集長)
【いながききよたか プロフィール】
1977年愛知県生まれ。現場制作部を経て、2007年『オリヲン座からの招待状』(第20回東京国際映画祭特別招待作品)で劇場映画デビュー。主な代表作は、映画「洋菓子店コアンドル」(2011)、映画「ソレダケ / that’s it」(2015)など。映画以外にも、テレビドラマやWEBドラマのシナリオを多数執筆し、活躍の幅を広げている。
自身の生い立ちと否応なく向き合った
『家族って何だろう?』という問いが着想のスタート地点
陶器職人の主人公と、海外で働く一人息子、そしてひょんなことから主人公と交流を深めることになる在日ブラジル人青年の運命が複雑に絡み合う本作。多様なテーマを内包した作品ではあるが、物語の軸になるのは父と息子の関係だ。プロのシナリオライターとして、「私的な感情を物語に投影しすぎるのは御法度なところがある」と語るいながき氏。しかし、本作を執筆する上では、否応なく自身の生い立ちと向き合うことになった。
「僕自身、恵まれた家庭環境で育ったわけではないんです。子供の頃から、家族というものに対して、悩みを抱える時間が人一倍多かった。それまでも“親子”をテーマにした物語、あるいは“父”を描いた物語を書いてみたことはあったのですが、どうしても私怨が混じり、上手くいかなかった。『過去を清算してやる』といった個人的な感情は、執筆の原動力になる場合もありますが、その分、客観性は失われてしまいますから」
愛知県で生まれ育ったいながき氏は、家族のしがらみから抜け出すように単身上京。それまで縁もゆかりもなかった映画業界に飛び込んだ。2007年に劇場映画デビューを果たすと、映画やドラマのシナリオライターとして活躍。その間、私生活でも結婚を経て、2011年には一児の父となった。
「本作のプロットに着手した2014年当時は、仕事も安定し、自分の家族を持ったことで、かつては憎むこともあった『父』を、『1人の人間』として客観的に見ることができるようになったタイミングでした。自分の生い立ちや家族について、ある程度距離をとって考えることができるようになり、改めて『父親って何だろう?』、『家族って何だろう?』という問いに向き合ったことが、着想のスタート地点でしたね」
本作のプロットは2014年の8月に完成。プロデューサーの伊藤伴雄とともに映画化への道を模索することになるが、すぐには映画化の目途が立たず、企画は5年間近く温められることに。いながき氏は、当時の心境を振り返る。
「シナリオライターであれば誰しもが、映像化されずに、パソコンのフォルダで眠ったままの物語を山ほど抱えている。すぐに作品化の目途が立たなくても、へこたれたままではいられません。とはいえ、世に出ていないとしても、手がけた作品は子供同然の存在であって、その一つひとつに並々ならぬ愛情があるのは事実。特に『ファミリア』は、自分の個人的な体験が色濃く反映されたものでしたから、映画化にかける思いが強くなかったと言ったら嘘になりますね」
しかし、2019年3月に入り、状況が一変する。『八日目の蟬』(2008)で第35回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した、成島出氏が監督を引き受け、映画化に向けた準備が始動。いながき氏は、長年温めていたプロットを基にシナリオの執筆に取り掛かった。
「完成した映画の中には、2014年に作ったプロットの要素がほぼ入っています。ガラッと変わったのはタイトル。最初は『父の茶碗』というタイトルでしたが、伊藤伴雄プロデューサーから「なんか地味だよねぇ。文芸作品みたいだよねぇ」と指摘されまして(笑)、二転三転したんです。映画では描かれていないのですが、当初のプロットでは、学がお父さんと一緒に作った茶碗をアルジェリアの職場で使用するシーンがあり、外国人の同僚に『いいなあ、それ』と声を掛けられるという描写がありました。ともあれ、その後、色んな方にプロットを読んでいただいたところ、『これは“家族”の話だよね』という声を多くいただき、最終的には『ファミリア』というタイトルに落ち着きました。我ながら、とても気に入っています」