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CGではなくリアルな手法を使用する理由

©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会
©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会

―――藝大二次試験のクライマックス、今まで八虎が描いてきた絵をパラパラと漫画のように見せる演出がありました。2時間という限られた時間で、八虎がどれだけ努力をしてきたか、「俺の絵で全員殺す」と言っていた八虎の心理が、このシーンで非常によく伝わってきました。こちらはどなたのアイデアだったのでしょうか?

「僕です。まさにそこが狙いで、彼が絵を描き始めてから、ここに至るまでの努力、そんなストーリーを2時間の中で伝えなければいけないので、彼が描いたであろうすべての絵。苦しんで描いた絵。で、その二次試験の最中では彼が努力で得てきた様々な技法を使う。この3つを組み込むことで、彼の努力と成長がドラマとして強く描けると思い、あのような構成にしました。だから本当は、彼が苦悩するシーンは、2次試験3日目の午後用に撮っていたんです。まあ、前半にもそこで撮ったものを少し散りばめていますが」

―――前半で八虎の苦悩を描かず、後半に描いたのはなぜですか?

「ストーリーとしてのドラマを表現するために、彼は飄々とやっていたようで、実はこんなに苦労していたということを見せたかったんです。でも前半の予備校での石膏像のシーンではかなり苦しむので、そこは隠さずに見せました」

―――八虎が絵と向き合うきっかけとなった早朝の渋谷のシーンは、あの浮遊感があったからこそ、私たち観客が『ブルーピリオド』という世界に入り込めるような気がしました。あの場面はCGではないとお聞きしたのですが、どのように撮られたのでしょうか?

「あれはめちゃくちゃ大変だったんですよ! まず絵というもの自体、アナログなものなので、敢えてCGを使わない手法で撮りたいと考えていました。だから、制作部が1年ぐらい前から渋谷警察署と交渉していたんですけど、結局渋谷駅は撮影許可が下りなかったんです。ただ、SHIBUYA109では撮影ができるとのことだったので、建物の駐車場スペースにクレーン車のハイライダーを停めて撮りました」

―――個人的にその場面は、原作だとゆったりと浮くより激しく飛行しているイメージがあり、「ブルーピリオド展」(2024)での映像も割と激しかったと思います。このシーンはなぜアナログで表現したのでしょうか。

「浮いているだけという演出にしましたが、胸が高まり、体がふわっと浮かび上がるような感覚を描きたいと考え、カメラが寄って回転するという演出を取りました。冒頭、渋谷の街を歩く八虎をカメラが追いかけて撮っていますが、それ以外の描写はあの青い渋谷の絵を描くまでずっとフィックス(カメラを固定したままの撮影)なんです」

―――確かに、八虎の心が動いた早朝の渋谷のシーンからカメラも動き出しました!

「それまで、バランスよく生きてきたキャラクターですから、最初、渋谷駅でも人を避けながらうまく歩いています。そして、体が浮き上がる演出の後から、やたらと人とぶつかるようになっているんです」

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